「ジェンダー不平等指数」が組み入れる項目

たとえばジェンダー不平等指標は、ギャップ(男女差)を定義できない項目も組み入れている(図表5)。

【図表】ジェンダー不平等指標のサブ指標と項目
図表作成=筆者

両者には共通の項目もあるが、最大の違いは、ジェンダー不平等指標では「妊産婦死亡率」「未成年出生率」など、人間開発指数(HDI)関連数値のうち、女性にのみ定義できる(男性には定義できない)項目を組み込んでいる点である。このような項目は、ギャップを数値化するジェンダーギャップ指数には組み込まれない。こういった項目は、しばしば開発途上国には「不利」に働くが、人間が安全かつ活発に行動する環境を整備する上で参照すべき重要なものだ。

ジェンダーギャップ指数で7位にいるニカラグアでは、未成年出生率が高く、実に日本の30倍にも及ぶ(図表6)。さらには10〜14歳の女性の出生率が高く、しかもそのうちかなりの部分は性暴力による望まれない妊娠の結果であることが、国連人口基金の報告書で指摘されている。この深刻な実態を考慮に入れるジェンダー不平等指標では、ニカラグアの順位は当然低くなる。

しかし同じ「健康」関連指標でも、ギャップを定義できる項目に絞っているジェンダーギャップ指数では、なんとニカラグアは日本よりもスコアが高いのである。ギャップが定義できる項目のみを採用するという方針には、この点については合理性がないと判断すべきだろう。

【図表】指標間比較
図表作成=筆者

「ジェンダーギャップ指数」の経済指標が拾わない真実

次に、ジェンダーギャップ指数はどちらかといえば経済先進国を想定した指標を多めに組み込んでいる、という点がある。たとえば管理職比率がそうだが、経済が発展して資本・人員規模が大きな組織が多数あるような国においてこそ意味を持つものだ。

経済指標をとってみると、明らかにある程度経済が発展した段階の(雇用経済が浸透した)国に合わせていることがわかる。労働力(参加)率の数字を組み込むことは妥当だが、農林水産業が主要産業であり、自営セクターが大きい国では、女性の労働力参加率は高くなることも考慮すべきだ。ジェンダーギャップ指数で上位であるルワンダでは、労働力参加率のギャップの数値は0.817で、0.759の日本より上である。しかし自営セクターにおける女性の地位は、相続権や所有権をもたない、経営権における女性差別が露骨であるなど、家父長制的な慣習のせいでしばしば低くなることもある。

開発途上国ではインフォーマルセクターの割合も高く(ルワンダでは9割近く)、ここでも女性はしばしば不利な処遇に陥る(IMFの報告書)。こういったことは、ジェンダーギャップ指数に多数組み込まれている経済関連項目では拾われない。というより、公式統計のあるフォーマルセクター、言ってみれば「お行儀の良い」部門での数値のみが拾われているのだ。