福山雅治『家族になろうよ』はいつの時代の話か

ところで、頑固ばあさんはいませんが、おせっかいばあさんはいます。この両者、ちょっと見ると似ているようですが、やはり違うのです。頑固ばあさんは自己の信念を貫こうとしますが、おせっかいばあさんのよりどころは世間の常識だからです。そんな格好で出かけたらみっともない、そんなことをいったら生意気だと思われるよ……。これらは自己の信念ではなく、世間の、多くの場合女らしさの規範に基づくものだからです。

意地悪ばあさんといえば、長谷川町子の人気漫画がありました。

主人公(お石さん)の意地悪は半端ではありません。よくもここまでやるなと顰蹙を買うようなことばかり。しかしこの漫画は大変な人気を博しました。

そのわけは、どんなに威勢がよかろうと、意地悪だろうと、お石さんはやはり「老い」と「女」という、絶対的な弱さを抱えた存在だからです。ちょうど人気アニメの『トムとジェリー』で、弱者であるねずみのジェリーが強者である猫のトムをいくらひどい目にあわせても、見ている方はどこか痛快さを感じる、その辺の心理と通底するのかもしれません。

つくづく思うのですが、意地悪というのは、弱者のもの。意地悪は女のほうに多いといわれますが、もしそういう傾向があったとしても、それは本質的に女のほうが意地悪なのではありません。置かれた立場からそうなったにすぎないのです。

平野卿子『女ことばってなんなのかしら? 「性別の美学」の日本語』(河出新書)
平野卿子『女ことばってなんなのかしら? 「性別の美学」の日本語』(河出新書)

そういったからといって男が意地悪をしないということではありません。女のそれより少ないかもしれませんが、その分たちが悪いことが多いですね、ハイ(ついでながら、「ばあば」「じいじ」と違い、「ばばあ」「じじい」の印象が悪いのは、日本語には「長音+短音」を好み、「短音+長音」を嫌う性質があるため)。

結婚情報誌『ゼクシィ』のCMソング『家族になろうよ』で、福山雅治はあらまほしき家族の姿を歌います。

ふたりの未来の姿は、「おじいちゃんみたいに無口な強さ」と「おばあちゃんみたいに可愛い笑顔」で、ふたりの子どもは、「あなたの笑顔によく似た男の子」と「わたしとおなじ泣き虫な女の子」だって。

いつの時代の話かっていいたくなりますが、二〇二〇年の紅白歌合戦で歌われたことでわかるように、『家族になろうよ』は、現在でも大変人気のある曲です。ネットでも、感動した、美しい家族の姿に号泣したとの書き込みが続々。うーむ……。

平野 卿子(ひらの・きょうこ)
翻訳家