妊活ブームを背景に苦しむ女性たち

2012(平成24)年3月、少子化ジャーナリストを名乗るようになった前出の白河桃子さんが、不妊治療の最前線にいる医師、齋藤英和氏(国立成育医療研究センター 母性医療診療部不妊治療科医長)と組み、『妊活バイブル』(講談社プラスアルファ新書)を発表しました。

齊藤英和、白河桃子『妊活バイブル』(講談社+α新書)
齊藤英和、白河桃子『妊活バイブル』(講談社+α新書)撮影=プレジデントオンライン編集部

その直前にあたる2月14日、NHKクローズアップ現代「産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~」の影響も大きく、「妊活」という言葉が瞬く間にブームとなっていきます。同番組では未婚で健康な30代の女性が将来、産みたくなったときに確実に産めるように、卵子の凍結を決断する光景も放映され、「ここまでしないと子どもを産めないのか」という衝撃を世に与えました。

この2010年代初頭の「産めない事実の提示」は、少子化解決には一つの良薬ではあったのでしょう。ただ、こうした煽りにより、不安と焦燥感に苛まれる女性が多くなったことも間違いありません。世の中は、「産めるのに産まない」人ばかりではないのです。男性との縁がない、振られる、結婚しても子どもができない、など悩みを抱えている女性はとみに多い。容姿に恵まれ、資産もあり、キャリアも充実している論者と比較して、砂をかむようなやるせない思いをした女性たちが、ことのほか多かったのではないでしょうか。

【図表】日本人の平均初婚年齢
【図表】第1子出生時の母の平均年齢の年次推移(歳)

働け、産め、育てろ…女性への多重圧力は解消されず

少子化対策は、2012年の12月に行われた総選挙によって自民、公明の両党が民主党から政権を奪還、第2次安倍政権下で大きく進展します。民主党の鳩山政権時は「少子化」という言葉が「上から目線」だとして、「少子化対策」を「子ども・子育て支援」への言い換えを図っていました。出生奨励ではなく、生まれてきた子どもを大事に育てることに政策をフォーカスするべきだとも主張しています。この点は、「産め」という社会の圧力への反省とも受け取れるでしょう。ただ、それにより、少子化対策が停滞したともいえます。

こうした姿勢を改め、再び「少子化(出生奨励)」に着目した安倍晋三首相は、2013(平成25)年、森まさこ少子化対策担当相の下に政府の諮問機関「少子化危機突破タスクフォース」を立ち上げます。緊急対策として、①子育て支援、②働き方の改革、③結婚、妊娠・出産支援を、少子化を食い止める「三本の矢」として提案しました。しかし、ここでもまだ「イクメン」の扱いは極めて小さく、女性への「働け、産め、育てろ」という多重圧力は解消されておりません。

早婚、早出産願望はあるのに、なぜそれが叶わないのか

先の『妊活バイブル』コンビの齋藤さんと白河さんは東京近郊の大学や高校で、女子学生向けの「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」を2012(平成24)年から出張授業という形で行っていました。その内容をまとめて、2014(平成26)年に『「産む」と「働く」の教科書』(講談社)が上梓されます。

この本の中で、白河さんは興味深いデータを紹介しています。都内の中堅女子大の1年生1098人、早稲田大学の2~3年の女子学生112人それぞれに、「結婚と出産の時期をどうしたいか」を聞いたところ、中堅女子大で67%、早稲田大学でも49%の学生が「早く結婚して早く産みたい」と、その多くが「早婚早出産」を希望したのです。

彼女たちがその後、どんな選択をするのかはともかく、そもそも「早婚のすすめ」は不要なくらいに、女性たちはその気を持っているのでしょう。なぜそれが叶わないのか。焚きつける、急かす、追い込む……そんなことでは解決できない本当の理由に迫るべき時です。