ニュースによって少子化が促進されたのか
以上の分析結果が示すように、テレビの経済ニュースによって人々の出生行動は影響を受けます。
私たちが社会全体の状況を知るにはテレビのニュースを見ることが簡単な方法であり、その内容によって影響を受けるのはある程度納得できます。しかし、出産というライフイベントも影響を受けるという結果は、驚くべきものです。
では日本ではどうなのでしょうか。残念ながら日本においてテレビの経済ニュースと出生行動の関係を分析した研究は存在しておらず、その実態は明確にはわかりません。
ただ、情報化社会となっている日本で、ニュースの影響がないと断言するのは難しいかもしれません。日本の場合、「失われた30年」と言われるような長期不況・低経済成長が続いたせいもあり、ネガティブな経済ニュースが多く報道されてきました。これが人々の出生行動に影響している可能性は否定できないでしょう。
(*1)筒井淳也(2017)『結婚と家族とこれから 共働き社会の限界』光文社
(*2)Pirani, E., Guetto, R., & Rinesi, F. (2021). Le famiglie [The families]. In F. C. Billari & C. Tomassini (Eds.), Rapporto sulla popolazione: L’Italia e le sfide della demografia [Population report: Italy and the challenges of demography] (pp. 55–82). Bologna, Italy: Il Mulino.
(*3)Guetto, R., Francesca, Morabito, F, M., Vollbracht, M., & Vignoli, D., (2023) Fertility and Media Narratives of the Economy: Evidence From Italian News Coverage, Demography, 60(2):607–630.
(*4)各月の経済ニュースの総件数は論文中に図で示されており、その図から最も多い月でも60件程度だと推測されます。なお、経済ニュースの総件数の1標準偏差にあたる値が5件でした。
(*5)ISTAT. (2016). CambieRai: Consultazione sul servizio pubblico radiofonico, televisivo e multimediale [ChangeRai: Consultation on radio, television and multimedia public service] (Report, July 27). Rome, Italy: Istituto Nazionale di Statistica.
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。