マスク氏は社にとどまり主導権を渡さないつもりか

しかし、ヤッカリーノ氏にとって最大の問題は、マスク氏自身であろう。なぜなら、マスク氏は会社を完全に彼女に譲るのではなく、ヤッカリーノ氏の上司であるエグゼクティブ・チェアマンとして、また彼女の部下であるCTOとして、会社にとどまり続けるからだ。

このような体制は、どのような状況でも管理するのが難しいだろうが、移り気な気性のマスク氏ならなおさらだ。マスク氏はヤッカリーノ氏に、過去に自分がやったことを覆すようなことも含めて、自分で決断し実行する権限を与えるだろうか? つぶやきに反応して気まぐれに決断するのをやめる気があるのだろうか? マスク氏がどこまで主導権を譲る気があるかが、ヤッカリーノ氏が会社を改善できるかどうかの鍵になりそうだが、残念ながら、マスク氏がその気になるとは思えそうにない。

一部の人は、ヤッカリーノ氏が世間の注目を浴び、混乱と非難を吸収し、イーロンは舞台裏で会社を運営し続けるだろうと予測している。あるいは、ツイッターの業績が改善されない場合、ヤッカリーノ氏は都合のいいスケープゴートとなるだろうと。いずれも「ガラスの崖」理論に沿ったものなる。

「ガラスの崖」を利用して成功を収めた女性CEOもいる

今後もサービスを使い続けたいと願うツイッター中毒者である私は、ヤッカリーノ氏の成功を心から願っている。そして、女性リーダーのファンとして、彼女を応援している。

とはいえ、ガラスの崖のような状況に置かれた女性が、必ずしも失敗する運命にあるわけではないと理解することも重要である。実際、そのようなポジションは、うまくやり遂げることができれば、輝くための絶好のチャンスになり得る。2014年からGMのCEOを務めているメアリー・バーラは、ガラスの崖の状況を利用して成功を収めた女性の著名な例だ。日本マクドナルドの再建を主導したサラ・カサノバも良い例だろう。もしかしたら、ヤッカリーノ氏の例も同じようなサクセスストーリーとなるかもしれない。

しかし、もしヤッカリーノ氏が奇跡を起こすことができず、ツイッターの業績が沈下し続け、あるいは倒産するようなことがあれば、彼女がスケープゴートとなることにも注意しよう。その時は、「ガラスの崖」理論を思い出してほしい。

ロッシェル・カップ(Rochelle Kopp)
ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社長

異文化コミュニケーション、人事管理、リーダーシップと組織活性化を専門とする経営コンサルタント。ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング代表取締役社長も務める。『英語の品格』『日本企業がシリコンバレーのスピードを身につける方法』など著書多数。