コミュニケーション量を増やす工夫

もちろん前述したように意思疎通がとりづらく、対面時代に比べてコミュニケーション量が少なくなったというリモートワークのデメリットもある。前出の通信系企業は上司、同僚、他部門とのコミュニケーションがリモートワーク前と比べてどう変化したのかについて調査した結果、上司とのコミュニケーションは2割がリモートになって弱まった、同僚とは3割が弱まったと回答し、比較的少ないが、他部門とでは約3分の1が弱まったと回答している。他部門とのコミュニケーションが減少すれば部門間の業務連携に支障を来し、新しいアイデアの創出機会の減少や他部門の業務に関する理解・共感の喪失などデメリットも生じる。

その対策として意図的に同僚とのWeb上の雑談時間を設定し、同僚の姿が見えないという課題を解決するために、誰がどう動いているのを知るバーチャル空間を活用している企業もある。通信系企業でも様々なテーマについて部門横断で話す機会をつくるオンラインミーティングや、懇親会やゲームなどのオンラインイベントも開催している。

オンライン会議
写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです

一律出社では採用の可能性を狭めてしまう

エン・ジャパンも出社とリモートワークを組み合わせたハイブリッド勤務をはじめとする様々な施策を講じている。

平原室長は「コロナ前の100%全員出社に戻すことはない。対面は人材育成の観点や偶発的なコミュニケーションから生まれるアイデアなどのメリットもある。対面の良さも取り入れながら最適なハイブリッドの形を今後も模索していく。今後の課題は人的資本経営でも言われているように社員のエンゲージメントの向上や多様な人材をいかに引きつけて、イノベーションを起こしながら高い生産性を生み出していくかが大きなテーマだと思う。一律に出社しろと言うだけで採用の可能性を狭めてしまう。フル出社する人、ハイブリッド勤務の人、フルリモートの人もいる多様な働き方が求められている」と語る。

原則リモートワークを推進している大手IT企業の人事担当役員もこう語る。

「社員にはまったく出社しなくてもよいと言っているが、もしかしたら失敗するかもしれない。一方でデジタル化の促進の流れや働き方の進化を考えると、逆に出社させている会社が失敗なのかもしれない。今の段階では何とも言えないが、会社としては明日の日本の働き方だと信じてチャレンジするしかない」と語る。

出社に戻すのは簡単かもしれない。しかしリモートワークの中でのDXの推進など、エンゲージメントや生産性を高めるための試行錯誤が新たな成長の基盤ともなり得る。中・長期的な企業の成長を大きく左右する可能性がある。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。