「自由は2年間じゅうぶんに堪能しました」

陛下は英国からご帰国の途次、米国に立ち寄られた。この頃、日本のメディアは「ひょっとすると米国のどこかでお見合いをされるかもしれない」などと考えて、陛下を執拗しつように追い回していた。

徳仁親王『テムズとともに 英国の二年間』(紀伊國屋書店)
徳仁親王『テムズとともに 英国の二年間』(紀伊國屋書店)

そんな時、ニューヨークで陛下に取材したある新聞記者が、ついいたたまれなくなってお詫びした。

「殿下(天皇陛下)、申し訳ありません。かけがえのない自由を楽しまれておられる時間にお邪魔ばかりしておりまして」と。

すると、天皇陛下は微笑を浮かべられて、きっぱりと次のようにおっしゃったという。

「いいえ、自由は二年間オックスフォードでじゅうぶんに堪能しましたから」と。

陛下のこのようなお答えに記者は強く心を打たれ、後に以下のような感想をしたためている(産経新聞、平成5年[1993年]1月31日付)。

「たった二年間の自由。それだけでじゅうぶんに堪能したといわれる殿下。この返答には今後は天皇家のご長男としてひたすら国民のことだけを考えて『天皇の道』を歩まれる『覚悟』が示されている。もう自分の人生に自由はない。二十五歳の青年が示したなんと壮絶な『覚悟』ではないか」

天皇陛下の今の願い

この度、本書の復刊に際して、天皇陛下は新しく「復刊に寄せて」という一文をお加えになった。そこにはこんな文章が記されている。

「遠くない将来、同じオックスフォード大学で学んだ雅子とともに、イギリスの地を再び訪れることができることを願っている」

一人の国民として、陛下のこの願いが近くかなうことを望む。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録