必要なのは「知らせること」「知ること」

街にいる人はだいたいみんな、いい人です。「自分は基本的に善良な人間である」と自認している人がほとんど。そこに「みなさまの善意」に頼る形のアナウンスがされている優先エレベーター。しかし詳しい使い方は実は知らない。知らされていないので無自覚です。

自分は何も悪いことをしていないつもりで街から家に帰ってきて、ネットを見たら「譲ってもらえなくて困った」という文言が目に入ったら、罪悪感が湧いたり「あなたは譲ってくれない」と自分が責められているように感じてしまうってことがあるんじゃないだろうか、と私の勝手な想像なのですが、思います。そこで湧いた困惑や憤りが、発言者に向いてしまうこともあるのではないかな、と。

優先エレベーターを必要とする人への理解や、優先エレベーターの重要さ、そして譲り方のレクチャーを学校や職場やどこかでしっかり教わる機会が30分でもあれば、みんな納得してスムーズに気持ちよく優先エレベーターを利用することができるのではないか、と思います。

そう思うのは私自身もベビーカーユーザーになるまで、優先エレベーターの重要性に全く無頓着だったから。

「誰もちゃんと教えてもらってないんだから仕方ない」。そういったん開き直って、「無知、無頓着なことを責められている」と捉える方向ではなく、「知らせることと知ること」に注目すれば、みんなの優しさパワーが発揮されるんじゃないか、そんな風に思います。

田房 永子(たぶさ・えいこ)
漫画家

1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。