新しい研究分野を開拓・起業。夢だった技術を10年で現実に

学生時代に命に関わる大病を経験した玉城さんは長い入院生活を強いられ、友人たちのように部活や旅行などが自由に体験できないことに強いいら立ちを覚えた。

14年、第4回「日本起業家賞(TEAJ-EMI)」(米国政府主催)ファイナリストに選出。米国大使館で、ファイナリストたちとともに駐日米国大使(当時)のC.ケネディ氏を囲む。
14年、第4回「日本起業家賞(TEAJ-EMI)」(米国政府主催)ファイナリストに選出。米国大使館で、ファイナリストたちとともに駐日米国大使(当時)のC.ケネディ氏を囲む。

「自分で旅行ができないなら、他人やロボットの体験を共有する技術を開発すればいいと考えました。ボディシェアリングのイメージはこの時期に芽生えたのだと思います。大学では情報工学を専攻しましたが、私が想像していた感覚共有研究はその頃まだ、研究分野も存在しませんでした」

そこで新しい研究分野をつくるために博士号を取り、いち早く産業化するために研究職と起業を両立する道を選んだ。

「研究者のビジネスは先端技術の社会への導入がスピーディーなのが利点。世界では工学博士と経営者のような二足のわらじは珍しくありません。今は有能な人ほど複数の専門性を持ち、成功しやすくなっています」

12年に起業、10年あまりで開発したボディシェアリングは、体験者がロボットやアバター、他人の体験を感覚として共有できる技術として、観光、農業、スポーツやエンターテインメントなどさまざまな分野で応用されている。ほかにもバーチャルオフィスなどでの活用で実用化に向かっているという。

(写真左)ボディシェアリングの開発風景。(写真右)「FirstVR」(下)と触感型ゲームコントローラー「UnlimitedHand」(上)。
(写真左)ボディシェアリングの開発風景。(写真右)「FirstVR」(下)と触感型ゲームコントローラー「UnlimitedHand」(上)。

「アプリを起動し、体のデータをとるデバイス(※3)を装着してバーチャルオフィスに出社すると、その人の緊張や体力の消耗度合いなどが数値で表示されます。管理職は部下の状態を把握でき、リモートでも対面に近いサポートが可能になります。疲れ切っている、まだ余力があるなどが可視化できるので、サボっているとバレます(笑)。すでに企業でのテスト導入を開始しましたが、数年後には家庭でのサービスインもめざしています」

※3 筋変位センサーを搭載したデバイス「FirstVR」をふくらはぎに装着すると「緊張」と「残体力」が推定できる。