14%の子どもが世帯所得127万円以下の家庭で育つ

努力や意志が大切でないわけではありません。それはとても大事であり、尊重されるべきものです。それでも、運の要素は無視できないのです。厚生労働省の調査によると(※2)、相対的貧困率(世帯収入が127万円以下)は15.7%であり、人口の約6人に1人が貧困ライン以下で暮らしています。また、子どもの貧困率は14.0%で、17歳以下の子ども全体で14%(約7人に1人)が、127万円以下の世帯所得の下で暮らしています。

貧困をはじめとする格差の問題は、学校の勉強であれ、その他の文化的・身体的な訓練であれ、学習や競争のスタート地点が、子どもによって大幅に違っています。どんな家庭環境に生まれるかという自分では統制できない要素(=運)が、大きな影響力を持っているのです。

一人でたたずむ男子学生
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです

「努力次第」という正論が問題を見えなくする

しかし世間は、「すべては意志や努力次第だ」「認識を変えて行動すれば世界は変わる」といった考えを「正論」として押しつけ、「運」の問題を見えなくさせています。それによって、「競争によって公平さが確保されている」「競争に勝ち抜くことで、私の価値は後世に評価された」といった感覚が広がり、競争の成功者が矜持や驕りを、成功しなかった人たちが恥や憤りを感じてしまうことになります(こうした論点は、先ほど紹介した記事でも掘り下げましたが、「公正世界仮説」や「メリトクラシー」などの言葉で調べれば、より詳しくわかるはずです)。

「親ガチャ」に対して、「でも配られたカードで頑張れよ」「結局は努力と意志の問題だ」と切り返すことは、こうした誤った「正論」によって、運要素を見えなくさせてしまいます。それは、問題ない状況にいる人間が、不遇を当事者に飲み込ませる欺瞞ぎまんのある言葉遣いです。それに、「結局は自業自得だ」と問題を自己責任化することで、貧困や虐待などの家庭環境の課題に社会で取り組もうという機運を削いでしまいかねません。

(※2)「2019年 国民生活基礎調査の概況