分刻みのスケジュールで動く親たち
いったい何にそんなに忙しいのだろうか。子どもたちのスケジュールを母親たちに書いてもらった。
図表1は、共働き家庭のケリーさん(仮名)の小学1年生の娘の1週間のスケジュールだ。平日は学校の後、18時まで学童(Student Care)に行き、その後、木・金にPhonics(英語)、ピアノが入っている。
土曜日は午前中に算数と水泳、午後にテニス、日曜日は午前中の3時間が中国語で、午後はコーディングと、5種類の習い事で埋まる。
図表2は専業主婦であるシンディさん(仮名、前出)の当時小学2年生の息子のスケジュールだ。学校から帰宅後に自宅で昼食を取り、その後、月:水泳、火:ピアノ、水:英語、木:中国語、金:そろばんが入っている。習い事によって始まる時間が異なるので、その合間に宿題をする。
シンディさんには年長の次男もいて、弟もほぼ同様のスケジュールの詰まり具合だが、兄と一緒に受けるものもあれば、時間帯がずれているものもある。母親は車で送迎をするのだが、兄弟それぞれの時間に合わせて文字どおり分刻みの行動をしている。
シンディさんは、「うちの子にリラックスタイムはないわね……習い事の合間に宿題をさせていて、うーん、宿題が終われば、リラックスタイムかな」と、取って付けたように書き込んでいた。土曜日はテコンドーのみで、日曜日は家族で出かけるなどフリータイムにしているという。
活動に追い立てられる親子
もちろん、もっとリラックスした親子もいる。コロナが流行する前は、私は公共住宅の合間に設置されているプレイグラウンド(公園)スペースで自分の子どもたちを遊ばせていたが、近所の子どもが遊ぶ中に小学生もいたし、習い事はゼロで、自宅や、共働きの場合は祖父母の家でのんびりしているという家庭もある。
しかし、インタビューをしていくと、小学校低学年から、平日は毎日1~2種類、あるいは週末に複数の習い事があるというケースは決して珍しくない。
これは日本についても同じで、私は以前、東洋経済オンラインで、習い事熱について書いたことがある。ただし、日本では主に専業主婦から、どちらかというと子どもたちの時間を持て余していて、「体力を使ってもらう」ために習い事に行かせるといった語りがあったが、シンガポールではほとんど聞いたことがない。
学力競争も残りつつ、習い事もグレード化する……という中で、シンガポールでは親子は、より様々な活動に追い立てられているように見える。
1984年生まれ。2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社入社。金融機関を中心とする大企業の財務や経営、厚生労働政策などを担当。14年、育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に提出した修士論文を『「育休世代」のジレンマ』として出版。15年から東京大学大学院教育学研究科博士課程、フリージャーナリスト。キッズライン報道でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞受賞。22年から東京大学男女共同参画室特任研究員。