自分がモラ夫か、本人にはわからない

Aさんの夫は、日常的にAさんを叱り、非難し、説教していた。つまり、「主人」としてAさんに君臨していたのである。彼が、モラ夫であることは間違いない。しかも、常にモラハラ案件を扱っている私から見ても、モラ度の相当程度進んだ事例である。

ところがAさんは、我慢に我慢を重ね、心身が壊れるまで離婚を決断できず、離婚を決断する直前まで、夫の行為がモラハラだと認めなかった。そして夫の方は、離婚判決が出た後もなお、自らがモラ夫であることを認めないだろう。

男性が「自分はモラ夫ではない」と信じていても、それが加害者パラドックスによるものである可能性は捨てきれない。特に、妻に対し「指導している」夫は、モラ夫である可能性が高いだろう。

他方、妻たちも、「自分にも悪いところがある」との自責の念が強く、我慢を重ねている場合、モラ被害のパラドックスの典型例である可能性が高い。

夫のモラハラは、確実に妻の心身を壊し、夫婦仲を悪くする。しかし、夫と妻の双方がそれをモラハラと認識していないせいもあり、モラ夫と妻は、傍目からは「おしどり夫婦」に見えることが非常に多い。結局、本人たちも周囲もモラハラに気付かないまま、破局に進む夫婦も少なくない。日本ではこうした、夫婦の「隠れモラハラ破綻」が、実はかなり多いのではないだろうか。

大貫 憲介(おおぬき・けんすけ)
弁護士

1959年生まれ。1978年International School of Bangkok卒業。1982年に上智大学法学部法律学科卒業、1989年弁護士登録。1992年に独立し、さつき法律事務所を開設。外国人を当事者とする案件、離婚案件などを含む一般民事事件を中心に弁護士業務を行う。2015年ごろからTwitter(@SatsukiLaw)でモラ夫の生態についてツイートしている。2018年9月からは、4コマ漫画「モラ夫バスター」を週1本ペースで掲載。