「そこまで思い詰めていたとは……」

Aさんが別居を決行したその日の午後、私はAさんの夫に電話して、Aさんの別居を伝えた。「なるべく早く、会って話したい」と言ったところ、Aさんの夫は、その日の夕方、会社を定時で切り上げて、私の事務所にやってきた。

Aさんの夫は、「妻がそこまで思い詰めていたとは知らなかった」という。昨日まで仲の良い夫婦で、家族で一緒によく旅行にも出かけ、週末は外食などにもよく行った。一度だけ、妻があまりに理不尽なことを言い立てたとき、大人しくさせるために壁を叩いたことがあるという。

1審では棄却、控訴審で離婚が成立

Aさん夫婦の事案は、その後、離婚調停、離婚裁判、控訴審と進んでいった。夫は離婚に同意せず、調停は不成立で終わり、離婚裁判になったのだ。

離婚裁判で、専業主婦だったAさんが証言した、夫のモラハラは、次のようなものだった。

・夫が朝出勤する時は玄関まで行って見送り、夜帰宅した時は玄関で出迎えることを要求され、実行していた。腰痛が辛い日も許してもらえなかった
・友人と食事会、飲み会があり出かける時は、事前に夫の許可が必要だった
・料理について、いつも怒られていた。例えば、鍋に食材を入れる順番がおかしいと怒鳴られた
・部屋にゴミなどが落ちていると叱られ、延々と説教された
・体調が悪くても、家事や“夜のおつとめ(性行為)”を要求された
・何か気に入らないことがあると不機嫌になり、1日中無視された。外出する際に結婚指輪をし忘れていたら、翌日まで不機嫌になり無視された
・怒ると、壁を叩いて大声で怒鳴る

離婚弁護士の見解としては、これらの「モラハラ」では離婚は確実とはいえない。担当する裁判官の人生観、家族観によっては、離婚が認められないことがある。そしてAさんの案件について、家庭裁判所(1審)では、夫の言動は、婚姻関係を破綻させるほどのものであるとはいえないとして、離婚請求は棄却された。

その後、事案は控訴審に移る。控訴審は、一転、家裁の判決を取り消し、改めて離婚を言い渡した。諸事情や経緯を鑑みて、婚姻生活を続けることは無理であり、婚姻関係は破綻しているとの判断であった。