親が子を愛していても安全とは言えない
家庭復帰を考える時や、どのように養育者を見ているのかを考える時、工藤氏が言う「安心感のものさし」は役に立ちます。さまざまな条件がある中で、家庭復帰が行われます。その際に、子どもにとっての「安心感」という共通のゴールを、親と支援者が持つことは、なかなか難しいのです。
「子どもにとって、くっつける相手がいるか?」
これはすなわち、安全な避難所と、安心の基地の役割の大人がいるか否か、ということです。
子どもが安心か否かを判断する基準は、親が子どもを好き、子どもが親を好きという情緒的なものではありません。よく「この親は子どもへの思いがあるのです」と支援者が言われることがありますが、それだけでは安全ではありません。子どもが親に対して恐怖のシグナルを出していないかどうかを観察し、安心感のある関係(基地や避難所として親にくっつけるか)になっているかどうか、という視点で見ていく必要があります。
子どもにとって利用可能な大人になれているか
それは、「養育者は子どものシグナルに気づけるか。行動の意味を理解できるか。適切に応答できるか」というものさしでもあります。子どもの行動や欲求(ニーズ)について、「安心感」という共通のものさしで親と支援者が率直に話せること、それ自体に大きな意味があります。
大切なのは、子どもから見て親や養育者が「利用可能」か否かなのです。
神戸大学大学院総合人間科学研究科前期博士課程修了。児童相談所で勤務後、2007年にチャイルド・リソース・センターを設立。21年より認定NPO法人。同法人は設立時より、児童相談所の委託を受け、虐待などの育児に困難を抱える親とその子どもに「親子関係再構築プログラム」を提供している。日本初の取り組みであり、これまで250組以上の親子にプログラムを提供。著書に『虐待する親への支援と家族再統合』(共著、明石書店)。