生涯未婚率がゼロに近づいても合計特殊出生率は…

では、この「出生率の基本方程式」から、どのような施策が考えられるか。一つは、①「生涯未婚率を引き下げる施策」であり、もう1つは、②「有配偶出生数を引き上げる施策」だ。

このうち、①の施策によって生涯未婚率が35%から20%に引き下がっても、有配偶出生数が2のままでは、出生率は1.6までしか改善しない。仮に生涯未婚率がゼロに近づいても、有配偶出生数が2のままでは、合計特殊出生率の上限は2を超えられない。

だが、生涯未婚率が35%のままでも、有配偶出生数が3になれば、出生率は1.95になり、さらに有配偶出生数が4になれば、出生率は2.6で、2を超えることができる。

このため、異次元の少子化対策の目的を「出生数の増加」に位置付けるなら、②の施策に資源を集中投下した方がよい。生涯未婚率が35%のままでも、有配偶出生数が3に上昇すれば、出生数の基本方程式から、合計特殊出生率は1.95となる。この値は、2021年の合計特殊出生率1.30のおおむね1.5倍だ。現在の出生数は約80万人なので、出生数が120万人程度に跳ね上がる可能性を示唆する。

少子化を示すグラフ
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有配偶出生数を2から3に上げる方法

では、②の施策として、具体的に何を実行するかだ。つまり、どうやって有配偶出生数を2から3に引き上げるか、が問題になる。

岸田首相は年頭の記者会見にて、1)児童手当を中心とした経済的支援の強化、2)学童保育や病児保育、産後ケアや一時預かりなどすべての子育て家庭に対する支援拡充、3)育児休業制度の強化を含む、働き方改革の推進やその支援制度の充実、の3つを例示していたが、どれも既存の施策の延長線上であり、出生数を大幅に引き上げることは不可能に近いと思われる。

既存施策の延長線でなく、ターゲットを絞り、もっと思い切った異次元の政策が必要だ。そもそも、一般的に少子化対策といっても、さまざまな政策手段があり、出生数の増加そのものに直接働きかける出産育児一時金のような施策(a)と、出産後の子育て支援を行う児童手当や学童保育支援のような施策(b)の2グループがある。教育や子ども医療費の支援も(b)のグループに属する。行動経済学的な知見を考慮すると、(b)よりも(a)の方が出生数の増加に寄与する可能性が高いのではないか。

最近、話題となった税制措置の「N分N乗」方式も、グループ(b)に近い。これらすべてに対し、総花的な対策で、資源の逐次投入を行っているだけでは、少子化のトレンド転換を果たすことは難しい。