有効な少子化対策はあるのか
第16回出生動向基本調査(2021)によると希望する子どもの数の平均は減っているが、依然として多くの若者が結婚して子どもをもちたいと思っているのは希望である。老後の孤立不安が若い人にも共有されているからと考えられる。条件を整えれば、少子化を反転させる可能性はある。
ただ、「子どもに十分な経済環境を与えられる見込みがない」ことが少子化の主因であっても、若い人の立場によって、どのような対策をすればよいかは異なる。というより、各立場の人に合った政策を「全て」行う必要がある。一つの対策をすれば、子どもの数が増えるといった魔法のような対策は存在しない。
例えば、正規雇用共働きの夫婦に関しては、今までの政策の延長でかまわない。彼らは、子育てのための収入は十分であるが、子育ての時間がない。そのため、子育て期間中、例え管理職であっても男女とも労働時間を削減する「労働改革」は必要である。
一方、共働きでも多数を占める、正社員男性と非正規やフリーランス女性の組み合わせでは、時間はあってもお金が足りない。育休などの範囲拡大や児童手当の拡充などが不可欠である。
もちろん、出産一時金や児童手当を十分に出して、子どもを多く産んだら生活水準が下がってしまうという事態を防ぐことも重要である。
そもそも収入が少なくて結婚できないという事態も広がっているのだから、若い人の雇用の全般的底上げも必須である。
また、労働時間も不規則になっている。「接待を伴った飲食サービス業」で働く子育て世代の女性も多い。彼女らにとって、日曜や夜間に開いていない保育所は使いづらい。彼女らの子育てを支援するためには、保育所の開所時間の柔軟化が求められる。能登の旅館では仲居さん向けの「日曜や早朝も使用できる社内保育園」が既にあるので、それをモデルにすればよいだろう。
最大の課題は高等教育の費用
そして、最大の課題は、子どもの高等教育費用である。欧米は成人までが親の責任なので、子どもが大きくなればお金はかからない。一方、日本など東アジア諸国では、高等教育費は親負担が当然とされ、受験競争も厳しいので、子どもの数を絞らざるを得ないのだ。大学や専門学校(年20万人以上入学する)の負担軽減などの対策が必要である。
そして、奨学金返済の軽減も重要な課題だ。大卒者で奨学金の返済負担から結婚できない、結婚相手として避けられるという若者が多数存在している。彼らのサポートのためにも、結婚して子どもを産み育てたら奨学金返済免除などの策は必要だろう。
選択的夫婦別姓制度も「伝統的な家意識」の点からも少子化対策となる。名字を残したいから養子に来てくれる男性としか交際しないという地方の長女も多い。また、日本でも同性カップルで子どもを育てている女性も増えてきた(形式上は母子家庭)。同性結婚を認めれば、子どもをもちたいという女性カップルの出産を促進するだろう。人数的には多くはないが、底上げにはなる。
様々な理由で、産みたくても産めない人に対して、大胆かつきめ細かい対策をして初めて、異次元の少子化対策と言えるのではないだろうか。
1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主著に『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『「家族」難民』『底辺への競争』(朝日新聞出版)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社)、『結婚不要社会』『新型格差社会』『パラサイト難婚社会』(すべて朝日新書)など。