年金は何歳からもらい始めるのがいいのか。確定拠出年金アナリストの大江加代さんは「公的年金を『貯蓄』と思い込んでいると、『いつ死ぬかわからないから、早くもらったほうが得だ』という発想になってしまいます。その誤解こそが、年金を減らしてしまう原因です」という――。

※本稿は、大江加代『役所や会社は教えてくれない! 定年と年金 3つの年金と退職金を最大限に受け取る方法』(ART NEXT)の一部を再編集したものです。

机の上に年金手帳と電卓
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「早死にしたら損」と考える人が知らない公的年金の本質

公的年金は終身で支給されます。そうすると、単純に考えれば、長生きすればするほど受給年数が増え、受け取り総額も多くなりそうです。しかし、自分がいつまで生きるかは誰もわかりませんよね。

年金の受け取り総額の例として、前回の記事では「夫婦で90歳まで生きると6000万~1億円近い」という数字を出しました。しかし、寿命によって受け取り総額は変わります。

だとすれば「早く死んだらモトがとれないよね?」「給料から毎月天引きされた分は回収できるの?」とモヤモヤした人もいるのではないでしょうか。

もしもあなたが「掛金を納めた分以上に取り戻さないと損している」と思っているなら、それは公的年金の本質を見間違えています。

公的年金は「長生きリスク」に備える保険

結論からいうと、公的年金の本質は「貯蓄」ではなく「保険」なのです。

保険というと、生命保険や自動車保険などの民間保険を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、日本には民間の保険を利用する以前に、「国の保険」、つまり「社会保険制度」があります。公的年金は、その社会保険のひとつです。社会保険には、年金以外にも健康保険、介護保険、雇用保険といったものが含まれます。これらは、「病気やケガをしたとき」「要介護状態になったとき」「失業したとき」などそれぞれ給付要件が決まっていますよね。保険とは、こうした不幸に備えるものです。貯蓄のように、将来の楽しみのために自分で貯えるものではありません。

では、公的年金はどんな不幸に備える保険なのでしょうか。

それは「予想外に長生きすること」です。

長生きすることは、本来幸せなことです。しかし、加齢によって体が弱り、働けなくなれば収入は途絶えます。それに備えて十分なお金を貯えられればいいのですが、いつまで生きるかわからないため、「いくら備えれば安心か」という答えが出ません。

そこで、いつまでも長生きしてもいいように、終身で所得保障をしてくれるのが公的年金なのです。「保険」という役割を考えれば、「損だ」「得だ」と騒ぐのはナンセンス。

たとえば、がん保険は、がんにならなければ保険金はもらえません。しかし、「がんにならなくて損した」「保険料が無駄になった」とは誰も思わないはずです。なぜなら、保険金はもらえなくても、万が一に備える安心感を買ったと納得しているからです。