最初から攻撃的で破壊的だったわけではない
そういった「ぶつかり男」って「タタリ神」の状態なんじゃないか、と思います。
スタジオジブリの映画「もののけ姫」に「タタリ神(祟り神)」という怪物が出てきます。タタリ神が村に出てきちゃうと、むちゃくちゃ大変です。まず話が通じません。とにかく攻撃しかしてこなくて、村は破壊されます。だから村人もタタリ神を退治しようと攻撃します。
でもタタリ神は触るだけで危険です。勇敢に立ち向かった青年には、死に至る呪いがかかっちゃいます。とにかく徹底してワケの分からない、迷惑でしかないタタリ神。
でも実は、もともとは愛情深くて正義感の強いみんなの頼りになる者が、怒りと憎しみに心をとらわれたために「タタリ神」になる、ということが「もののけ姫」では描かれています。最初から攻撃的で破滅的な人というわけではなく、何かのきっかけがあって「タタリ神」の状態になっている、ということです。
私は、「ぶつかり男」と「タタリ神」を重ね合わせてしまいます。彼らは24時間365日、見知らぬ誰かにぶつかっているわけじゃないだろうからです。きちんと誰かに優しく接する時間もきっとあるだろう、ということを彼らの姿から感じるからです。
「もののけ姫」で、怒りと憎しみにまみれタタリ神になっていく乙事主にサンは叫びます。
「タタリ神なんかにならないで!」
タタリ神になってしまった乙事主を助けようとするサンも、巻き込まれてタタリ神になってしまいそうになります。
憎悪に心を支配されてしまった人が無関係な人たちに危害を加え、周りの人たちが迷惑をこうむり、けがをさせたり逮捕されたり、自分の地位や尊厳も失墜させてしまう。そんな日常生活でよくある光景を「もののけ姫」で見ることができます。
「ぶつかり男」と「タタリ神」の共通点
「ぶつかり男」は「タタリ神」と同じです。その上で、タタリ神にならないようにするには。本人がその、自分の中の憎悪や、それを見知らぬ相手にぶつけて巻き込んでいることに気づかないと無理でしょう。周りの人はどうにもできない。
もし雑踏の中で邪魔な人がいたら「ちょっと通ります」とか言えばいいだけです。ぶつかって何も言わずに立ち去る必要なんてない。ぶつかり男になってしまったばかりに、逮捕されちゃうかもしれない、そんなリスクをおかす必要ないわけです。だから言いたい。
「ぶつかり男なんかにならないで!」
1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。