仕事がなくても男性は家事をするわけではない
【平山】もう一つの問題は、そもそも家事育児ができない理由として、仕事を持ち出せること自体、特権的なことだからです。
先ほどの「社会生活基本調査」を再び取り上げると、子どものいる世帯での育児時間は、男女ともに有業な場合や、男性だけが有業で女性は専業主婦である場合だけでなく、男性が無業で女性だけが有業の場合でさえも、女性のほうが長い。
つまり、女性は仕事と育児の時間をトレードオフすることも、仕事があるからといって育児を配偶者に任せることも、ほとんどできないということです。つまり、家事育児ができない理由として仕事を持ち出せるのは、男性の特権なのです。
優位を利用して反論を封じるのはハラスメント
【平山】女性が家事育児をすることがデフォルトになっている社会で、女性たちは就業継続の困難も含め、既にさまざまな不利益を被っています。そういうなかで、女性が男性に「家のことも、もうちょっとやってほしい」と訴え、自分の置かれた状況を改善しようとしているとき、男性が「仕事で忙しいんだから」と言って反論することは、優位にある側がその特権を最大限利用して、劣位の側の必死の訴えを叩き潰す行為にほかならないんです。これこそ、構造的優位の乱用そのものでしょう。
【澁谷】めちゃくちゃ腹がたってきました。
【平山】これはハラスメントと言ってよいと思っています。相手に反論を難しくさせる、自分の構造的な優位を利用して、相手を自分の好きなようにするのがハラスメントですから。「時間がなくてできない」がまったくの虚構ではないにしろ、それを当然のように持ち出し、そのことで男性の家事育児の少なさを「致し方ないこと」のように説明してしまう意味を、男性はもっと自覚したほうがいいと思いますよ。それって、ただの弱い者いじめですから。
1972年、大阪市生まれ。東京大学大学院教育学研究科で教育社会学を専攻。現在、東京経済大学全学共通教育センター教授。ジェンダーおよび男性のセクシュアリティの歴史を研究している。著書に『日本の童貞』(河出書房新社)、『日本の包茎』(筑摩書房)などがある。
1980年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。恋愛とジェンダーの問題を中心に執筆活動を展開。単著に『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)、『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』(扶桑社)などがある。
1979年、神奈川県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程を経て、オレゴン州立大学大学院博士課程修了。専門は社会学、ジェンダー研究。現在、大阪公立大学大学院文学研究科准教授。著書に『迫りくる「息子介護」の時代 28人の現場から』(光文社新書)、『介護する息子たち 男性性の死角とケアのジェンダー分析』(勁草書房)などがある。