必要な区別と不必要な区別を考える

人が男女で空間を分けるときに必要な区別とは何なのか──。この問題は、少し前までは特に議論もされてきませんでした。トランスジェンダーの人はどちらの空間を使うのかという問題に目が向けられることもありませんでした。トイレは男性用と女性用の2つしかなく、それに違和感を覚える人はほとんどいなかったのです。

ところが今は、標識の色をどうすべきか、そもそも男女別トイレ以外の空間も必要なのではないかといった議論が進んでいます。議論すらされなかった段階から、皆でそういうことを考えていこう、議論を進めていこうという段階に来ているのです。

ジェンダー問題においては「必要な区別はあっていいけれど不必要な区別はしなくていいのでは」という議論が常にありますが、トイレ問題もその段階に来ているのだなと感じました。

こうした段階を経てジェンダーニュートラルの方向に進んだものは、他にも多くあります。例えばランドセルは、昔は男の子は黒、女の子は赤を使うのが当たり前とされていました。今はこの2色以外にもさまざまな色があり、多くのの子どもたちが好きな色のランドセルを使っています。性別に関係なく色を選べるようになったという点で、ジェンダー平等の方向へ進んだ例と言えると思います。

それぞれ、色とりどりのランドセルを背負って歩く小学生たち
写真=iStock.com/Milatas
※写真はイメージです

履歴書の性別欄は不要ではないか

また、今は履歴書の性別欄についても議論がされていて、もう不必要なのではないかという方向へ進みつつあります。これも、少し前までは性別を記入するのが普通とされていました。企業側が「一般職には女性を、総合職には男性を雇いたい」「男女の人数バランスをとりたい」といった考えを持っていたときは必要だったわけですが、今はそうした考え自体をなくすべきなのではという声が盛んになっています。

何が必要な区別で、何が不必要な区別なのか。トイレ問題のように、この観点で新しい議論が出てくること自体が、社会のジェンダー問題への関心の高まりを表しているように思います。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。