報告書になかった「男系女子による皇位継承」
これについて、岩田氏は以下のように述べている。
菅(義偉)政権から岸田(文雄)政権に至るまで続いた皇位継承をめぐる有識者会議の議論では、安倍も陰ながら意見を述べていた。
「旧皇族の男系男子を養子に迎える」という案も安倍自身の意向が反映している。
有識者会議への安倍氏の影響をストレートに述べている。令和3年(2021年)3月23日から同年12月22日にかけて13回にわたって行われた同会議での検討は“出来レース”だったのか、という印象を拭えないかもしれない。
ただし「男系女子による皇位継承もあり得る(=女性天皇を認める)」という点は、報告書に盛り込まれていなかった。
先般の有識者会議報告書は、頑固な男系論者と見られていた安倍氏の持論よりも、もっと腰が引けていたことになる。
「安倍プラン」の自己矛盾
それにしても、岩田氏が紹介する安倍氏の見解に明らかに不整合な部分があるのは、どう理解すればよいだろうか。
たとえば「安倍内閣の体力があるうちに……愛子天皇誕生への道筋に向けても責任ある議論を進めなければならない」という発言と、「現在の悠仁さままで皇位継承順位は変更しない」という考え方は、はっきりと矛盾している。
何しろ、悠仁親王殿下より敬宮(愛子内親王)殿下の方が5歳、お年が上でいらっしゃる。将来、もし悠仁殿下が皇位を継承されたら(決してあってはならない不測の事故でもないかぎり)「愛子天皇」の誕生は決してあり得ないはずだ。
「愛子天皇」を可能にする改正を棚上げ
そもそも安倍氏は、小泉純一郎内閣で「愛子天皇」誕生を可能にする皇室典範の改正が実現の一歩手前まできた局面で、秋篠宮妃紀子殿下ご懐妊の報道があった時に「神風が吹いた!」と大喜びで岩田氏に電話を入れていた。
当時の小泉首相を説き伏せて、皇室典範の改正を“先延ばし”させてしまったのは、他ならぬ内閣官房長官だった安倍氏がしたことだ。
しかし改めて言うまでもないが、たったお一人の悠仁殿下のご誕生によって、皇室典範改正の必要性がなくなったわけではない。それは当時、私が力説したことである。
正妻以外の女性(側室)のお子様など(非嫡出子・非嫡系子孫)に皇位継承資格を認めない現在のルールの下で、明治以来の「男系男子」限定をそのまま維持すれば、皇位の継承が行き詰まるのは火を見るよりも明らかだ。現在、政府・国会で再び皇位の安定継承への検討が求められている現実を直視すれば、あの時、「愛子天皇」誕生を可能にする制度改正を棚上げしてしまったことの無責任さは、改めて批判されて当然だろう。
安倍氏はいまさら、どういうつもりで「愛子天皇誕生への道筋に向けて……」などと口にしていたのだろうか。