11月10日発売の『文藝春秋』で、元NHK政治部記者でジャーナリストの岩田明子さんが、安倍晋三元首相は生前「愛子天皇」の誕生を認めていたと書いている。これについて、神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「安倍元首相のプランは、『愛子天皇』誕生を認めていた一方で『悠仁さままで皇位継承順位は変更しない』とするなど、数々の矛盾点があった」という――。
成年に当たり記者会見される天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=2022年3月17日午後、皇居・御所「大広間」[代表撮影]
写真=時事通信フォト
成年に当たり記者会見される天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=2022年3月17日午後、皇居・御所「大広間」[代表撮影]

「男系男子」にこだわっていたわけではなかった

政治記者の中で最も故・安倍晋三元首相に食い込んでいたと評価される元NHKの岩田明子氏。彼女は現在、「文藝春秋」に「安倍晋三秘録」を連載中だ。今月号(12月号)のタイトルは「『愛子天皇』を認めていた」。

このタイトルを見て「あれ?」と思った人も少なくないだろう。安倍氏といえば、皇位継承問題について「男系男子」限定という明治以来の“縛り”に頑固にこだわっていた政治家、というイメージが強いからだ。しかし、そのような一般的イメージと安倍氏の実像には少しズレがあったようだ。

興味深いリポートなので中身の一部を紹介し、私なりのコメントを加えて、皇位継承をめぐる今後の議論の参考にしたい。

「愛子天皇誕生への道筋に向けて責任ある議論を」

少し長くなるが、重要な部分をまとめて引用する。

長年にわたり、安倍は「男系男子」の皇位継承に強いこだわりを持つと見られてきた。確かに男系男子を原則としていたのは事実だ。……しかし、20年にわたり、安倍を取材してきた中で、その時々の安倍の言葉から見えてくる皇室像は「男系男子」以外を完全に否定するものでもなかったと感じている。

「安倍内閣の体力のあるうちに、有識者会議を立ち上げる。そして将来、愛子天皇誕生への道筋に向けても責任ある議論を進めなければならない」
ここ数年の間に、安倍が何度かそう口にするのを私は聞いている。

実は安倍は新型コロナの対応に当たりながらも、第2次政権の退陣直前まで、今後の皇室のあり方について、ずっと思案を繰り返していた。その頃に私が安倍本人から聞いた皇室像を要約すると、以下のようになる。

「男系継承を維持することを大前提とし、現在の悠仁さままで皇位継承順位は変更しない」
「過去に皇籍離脱した旧宮家を皇族に復帰させることはしないが、女性皇族は婚姻後も皇族の身分を持ち続ける」
「現在の宮家を維持し、旧皇族の男系男子を養子にすることを可能にする」
「旧皇族の男系男子が、現在の女性皇族の配偶者または養子になる場合は、その男性も皇族となり、その子どもは皇位を継承し得る」
「男系女子による皇位継承もあり得る」

以上の引用を見て、「どこかで見たようなプランだ」と感じた人もいるだろう。先頃、政府が国会に検討を委ねた皇族数の確保策をめぐる有識者会議報告書の内容と、要点がほぼ重なっている。