今月始まった全国旅行支援事業に「富裕層優遇だ」という批判が起きている。米国公認会計士で富裕層との交流が多い午堂登紀雄さんは「その指摘は2つの点で的外れだと言わざるをえません」という――。
スーツケースを引いて空港ターミナルを移動する人々
写真=iStock.com/izusek
※写真はイメージです

旅行者への支援ではなく観光業への支援

2022年10月11日から順次開始された全国旅行支援事業には賛否両論が飛び交い、中には「富裕層優遇だ! 庶民冷遇だ!」という声もあるようです。

経済的に余裕がなければ割引があったとしても旅行をすることはできず、この旅行割の恩恵が受けられるのは富裕層だけだという主張なのですが、これは2つの点で的外れだと言わざるをえません。

一つは、そもそもこれは国民(旅行者)への支援というより、旅行・観光業への支援であるということです。

零細事業者が多い業界で、コロナ禍の影響を大きく受けて支援が必要ということです。

ただ確かに、元はといえば行政が「移動するな」「外出を控えろ」「県をまたぐな」などとこの業界を痛めつけるような誘導をしておきながら、でもそれで困っているから助けようなどと、自分で火を付けておいて自分で火消しに走るという、壮大なマッチポンプのようにも見えますが。

富裕層は割引があるという理由で旅行をしない

もう一つは、多くの富裕層は割引の有無で旅行に行くかどうかを判断しないということです。

新型コロナの特性(飛沫を避ければ感染は抑制できる)は初期段階からわかっていましたから、このコラムでも繰り返し紹介している通り、私の周りの富裕層の多くは自粛も行動制限も最低限にとどめ(さすがに大人数イベントなどは控えていましたが)、対策をしたうえで旅行や近しい人たちとの会食を楽しんでいました。

ちなみにここでいう富裕層とはおおむね金融資産1億円以上、年収2000万円以上を想定しています。年収をこのラインに設定しているのは、節税のため保有する法人からの役員報酬を低く抑え、より税率の低い配当を受け取っているケースが散見されるからです。

また、先祖代々の富裕層ではなく、1代で財を成した人を意味しています。というのも、本人の努力や才覚とは無関係にお金を持っている人の習慣は、一般人にはあまり役に立たないと考えられるからです。

彼らの多くは起業家や経営者ということもあるからでしょう、自分の行動は自分で決定するものであり、他人に干渉されるものではないと考えています。だから旅行に行きたいときには行くし、仮に補助金が出たとしても必要のない旅行などはしないのです。

それこそ、「リベンジ消費」などとはしゃぐ理由も必要性もまったく感じない。

だから今回の旅行支援も、割引があるから旅行するわけではなく、このタイミングで旅行をしたい人はするし、予定や希望がない人はしないだけとなるでしょう。割引の有無など基本的に彼らの意思決定には関係ないのです(これが事業性の補助金・助成金なら話は別ですが)。「旅行割は富裕層へうんぬん~」などという指摘はまったくの的外れというわけです(むろん富裕層にもいろんな人がいるのは承知の上で)。