「イギリス王室は、植民地時代の君主制を、ポストコロニアル時代の君主制に進化させる能力を備えていました」とニューヨークタイムズに語ったのは、シドニー大学でヨーロッパ史を教えるロバート・アルドリッチ教授だ。「そして、女王はイギリス王室を、新しい形の君主制にうまく変化させたのです」

今は女王が亡くなったばかりで、さすがに英連邦王国の各国でも、イギリス王室から離れて共和制に移行しようといった議論は控えようという雰囲気があるようだが、今後、新しい国王が、こうした問題にどう向き合うかは注目されるだろう。

王室に多様性は反映されるのか

植民地支配の歴史や、過去の王室の歴史を見ると、イギリス王室は格差の象徴という側面があったことは否めない。白人が中心、富の象徴、血統主義であり、多様性には欠ける。しかし、現代のイギリスは多様性に富んでいる。9月に発足したイギリスのトラス内閣も、首相が女性というだけでなく、史上初めて、白人男性が外務大臣や財務大臣などの主要閣僚ポストにいない内閣となった。今後は王室の変革も求められるかもしれない。

国王は英国国教会の最高権威者でもあるが、イギリスの大衆紙、デイリーミラーによると、来年ウェストミンスター寺院で行われる国王の即位式には、キリスト教徒だけでなく、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、仏教徒の人々も招待することが検討されているという。チャールズ新国王は、30人余りのさまざまな宗教団体の代表者に対し、「イギリス国家の持つ多様性を大事にしたい」と語ったと報じられた。

人々が開かれた王室を望んでいることは間違いないだろう。しかし、王室への国民の支持の背景には、伝統や歴史など「変わらず受け継がれているもの」に対するあこがれや敬意があるのも確かだ。チャールズ国王は、伝統を維持しつつも、世の中の変化を反映しながら、どのような新しい王室の姿を作っていくのかが問われている。

大門 小百合(だいもん・さゆり)
ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員

上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。