モラ夫は治らない

離婚を決断する直前になってもなお、「昔の優しい彼に戻るのではないか」との淡い期待を抱いて、決断できない妻は多い。

出産や生活の安定などの何らかのきっかけ、妻が自分の不足を直す、あるいはモラ夫が改心するなどにより、「昔の優しい彼」に戻ることはあるのだろうか。

大貫憲介・榎本まみ『私、夫が嫌いです モラ夫バスターが教える“なぜかツライ”関係から抜け出す方法 』(日本法令)
大貫憲介・榎本まみ『私、夫が嫌いです モラ夫バスターが教える“なぜかツライ”関係から抜け出す方法』(日本法令)

答えは、否である。

経験からいえるのは、一度モラスイッチが入ると元には戻らないということだ。そもそも、結婚前や新婚当時の「優しさ」は作られた優しさであり、本来のものではない。

妻をディスり、不足を指摘し続けるのは、妻に対して優越的地位にいると信じているからであり、モラ文化が刷り込まれているからである。人格の基礎部分に刷り込まれた価値観、人生観を書きかえることは著しく困難であり、「昔の優しい彼に戻る」ことは、ほぼ絶望的である。

すなわち、理論的にはモラ夫は治り得るが、実際には治らないと考えるしかない。

更生は期待しないほうがいい

モラ夫の更生は期待しないほうがよい。私はモラ夫本人や被害妻から相談され、モラ夫の更生支援を引き受けることもある。その実務経験に基づいて説明しよう。

まず、モラ夫が更生するための最低限の条件は、次の3つである。

① モラ夫自身が自らの加害者性を自覚し、それを治そうとする強い意思を持ち、努力をすること(妻の努力ではモラ夫は治らない)。

② モラ夫自身が自らを謙虚に見つめ直すこと。ただし、自分だけでこれを実行するのはほぼ不可能なので、専門家の適切な支援を受けること。

③ このような努力を少なくとも数年間は続け、基本的人格に刷り込まれたモラ文化による価値観、人生観を修正し、男女は本質的に平等であるとの価値観で上書きすること。

ところで、昨今はモラ夫の更生を目指すプログラムもいくつか見られる。しかし、座学で講演を何時間聞いても、コミュニケーションスキルを学んでも、モラ夫は更正できない。

根本的な原因である価値観、人生観の上書きが必要不可欠である。

なお、たとえ土下座しても、「心を入れ替えた」と言っても、涙を流して「俺を信じてくれ」と懇願するに至っても、モラ夫が更生したとはいえない。長期間にわたる適切な努力をしない限り、モラ夫の本質は変わらないからだ。

モラ夫の3形態

もしモラ夫がコミュニケーションスキルを学び、「怒らない」ようになったとしても、しばらくすると、次の3つの形態いずれかのモラ夫になることが多い。

ア 彼なりの「怒り」の定義から外れた「怒りの示し方」を編み出して、「怒り」を表現するようになる
イ 「怒り」の表現を利用しない、ソフトモラ夫になる
ウ 上記の偽装すら面倒になって、元のモラ夫に戻る
大貫 憲介(おおぬき・けんすけ)
弁護士

1959年生まれ。1978年International School of Bangkok卒業。1982年に上智大学法学部法律学科卒業、1989年弁護士登録。1992年に独立し、さつき法律事務所を開設。外国人を当事者とする案件、離婚案件などを含む一般民事事件を中心に弁護士業務を行う。2015年ごろからTwitter(@SatsukiLaw)でモラ夫の生態についてツイートしている。2018年9月からは、4コマ漫画「モラ夫バスター」を週1本ペースで掲載。

榎本 まみ(えのもと・まみ)
漫画家

2012年文藝春秋より『督促OL修行日記』でデビュー。コールセンターで働きながら漫画やコラムの執筆を行っている。著書に『督促OL業務日誌』(メディアファクトリー)、『督促OLコールセンターお仕事ガイド』(リックテレコム)、『モラニゲ~モラハラ夫から逃げた妻たち』(飛鳥新社)など。