次の世代へつなぐ「恩送り」システム

田口らのソーシャルビジネスには、「恩送り」というシステムがあるという。グループの支援があって成功したのだから、次は、自分が新しい人たちに恩を返すつもりで、資金を提供するというものだ。

小川 仁志『不条理を乗り越える 希望の哲学』(平凡社新書)
小川 仁志『不条理を乗り越える 希望の哲学』(平凡社新書)

そのおかげで、若い人たちもスムーズに起業することができる。私は、この発想を社会のすべての仕組みに反映すべきだと考える。彼らの恩送りは決して施しでもビジネスライクな支援でもない。恩返しなのだ。別にお世話になった人への恩返しではないから恩送りなのだろうが、その本質はやはり恩返しなのだと思う。私たちは皆つながっているのである。

こうした発想を社会全体に適用するとき、それはもう従来の利他主義とは異なるのだから、新たな名称が必要だろう。たとえば、「リターン主義」というのはどうだろうか。利他主義とリターンを掛けている。言葉遊びだが、実質をとらえてはいないだろうか。

誰もが誰かになにかを負っていると感じ、お返しする気持ちで生きていく。そんな社会が実現したとき、私たちは、ようやく気持ちよく生きていけるような気がしてならない。このぎすぎすした世の中を変えるのは、そこに住む一人ひとりの気持ちでしかないからだ。

小川 仁志(おがわ・ひとし)
哲学者・山口大学国際総合科学部教授

1970年、京都府生まれ。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。専門は公共哲学・政治哲学。「哲学カフェ」の主宰やメディア出演など幅広く活動。著書に『悩まず、いい選択ができる人の頭の使い方』(アスコム)、『『ドラえもん』で哲学する 物事の見方が変わるヒント』(PHP文庫)ほか多数。