基礎研究の研究費を大幅に増やす中国

その一方で、研究費をどんどん増やしている国があります。中国です。

「研究費を出しますから来ませんか」と勧誘され、いま日本の研究者が、研究室の人たちと丸ごと中国へ移ったりしています。

この分だと、20年、30年後のノーベル賞受賞者は中国の研究者ばかりになってしまうのではないか。

池上彰『知ら恥ベストシリーズ1 知らないと恥をかく中国の大問題 習近平が目指す覇権大国の行方』(KADOKAWA)
池上彰『知ら恥ベストシリーズ1 知らないと恥をかく中国の大問題 習近平が目指す覇権大国の行方』(KADOKAWA)

基礎研究は何の役に立つかわかりません。そんなものにお金を出すのはもったいないと思ってしまうのかもしれない。でもアルフレート・ノーベルが発明したダイナマイトだって、実は偶然の産物です。ニトログリセリンを珪藻土にしみ込ませたらダイナマイトがたまたまできた。

ノーベルは自分が発明したダイナマイトによって莫大なお金を稼いだけれど、戦争に使われてしまったことを悔やんで、遺言を残しました。「自分が死んだ後、人類の進歩に役立った人に自分の財産をもとに賞をあげてほしい」。それがノーベル賞の創設です。

2002年に、宇宙ニュートリノの観測に成功したことでノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊こしば まさとし博士も、多くのメディアから「その成果は将来、何かの役に立つのでしょうか」と聞かれ「何の役にも立ちません」ときっぱり答えていました。しかし、実際には火山の中のマグマの動きを捉えるのに役立っています。役に立たないと思っていたことが、ある日突然、人類を救うことになるかもしれない。

近年、ノーベル賞受賞ラッシュに沸く一方で、このままでは日本の研究者が賞を獲れなくなる時代が来るのではないかという強い懸念の声もあります。

池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト

1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者として事件、災害、教育問題を担当し、94年から「週刊こどもニュース」で活躍。2005年からフリーになり、テレビ出演や書籍執筆など幅広く活躍。現在、名城大学教授・東京工業大学特命教授など。6大学で教える。『池上彰のやさしい経済学』『池上彰の18歳からの教養講座』『これが日本の正体! 池上彰への42の質問』『新聞は考える武器になる  池上流新聞の読み方』『池上彰のこれからの小学生に必要な教養』など著書多数。