休むとは「高度な技術」である

安定したパフォーマンスを発揮するためには、こうした「適切に休む」ことが重要なのは言うまでもありません。しかし、そもそも「休む」ということは非常に高度な技術であり、うまくなるために練習が必要なものだと私自身は認識しています。

うまく休むためには、複合的な能力が必要です。まずは、自分の疲労に気づき「休むことが必要だと気づく能力」です。これがなければはじまりませんが、必要性にうまく気づくことができたとしても、どう休めば有効なのかはまた別問題です。そこには「自らの現状に合わせた、適切な休養行動を選択する」という別の能力が必要になります。

そして、実際に行動に移す上で最も重要なのは、「『休みたい』という希望を他者に伝える能力」です。「勇気」と言い換えてもいいかもしれません。結局、ここのハードルが一番高いと感じている人が多いのではないでしょうか。

まず「休むことが必要だと気づく能力」については、前述のように、人は構造的にストレスを自覚しづらく、さらにテレワークで生じやすい「疲労感のない疲労」にも注意が必要です。

こうした疲労に気づくために、自らの身体症状や自律神経の状態に自覚的になること、ストレス負荷がかかった時に自分に起こるさまざまな反応を知識として知っておくことが重要ですが、その際に、アプリなどのテクノロジーが一助になることもあります。

自らの気分を日記のように記録する認知行動療法系のアプリや、睡眠状態や気圧の変化などを把握できるもの、声や心拍変動などの生体情報を活用したストレスチェックなども、開発者によって精度や使用感にばらつきはあるものの、セルフモニタリング等に有効だと思います。

自分で「限界です」と表明しなくて済む仕組みに

そして、仮に休むことが必要だと気づいたとしても、「『休みたい』という希望を他者に伝える能力(勇気)」という新たなハードルも存在します。

前回の記事で、メンタルヘルスリスクの高いハイパフォーマーの特徴として、過剰適応傾向で、「積み重ねた信頼」が壊れてしまうことをおそれて、自らが限界であることを表明することが心理的に難しいという特徴を挙げました。

このあたりはもちろん個人の慣れや話術、勇気の問題でもありますが、産業医として強く感じるのは、職場のメンタルヘルスの問題を個人要因にのみ帰結させているかぎり、解決は難しいということです。やはりそこは、組織のカルチャーや仕組みでカバーすることが望ましいと思います。

例えば、一部の企業では、申請理由が必要ない休みを運用しています。今回の調査を実施した両社の「なんとなく休暇」「新しい休み」や、生理休暇、不妊治療休暇などを含む、女性の有給取得申請はすべて「エフ休(Female休暇)」とした、サイバーエージェント社の事例などが該当します。

テレワークが推進されている今、それによる疲労やリスクを見直すだけでなく、「休む」という行動を高度な総合技術としていま一度捉え直し、個人レベルで磨いていくだけでなく、組織としてもさまざまな実践や仕組みのあり方を新しく提示していけたら素晴らしいと思います。

鈴木 裕介(すずき・ゆうすけ)
内科医・心療内科医・産業医

2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)などがある。