無理やり女性議員を増やしたわけではない

フィンランドは全国を14のブロックに分け、非拘束名簿式(候補者名または政党名のいずれかを書いて投票する方式)の比例代表制選挙を行う。この方式では、選挙のたびに政権や与野党の交代が起こりやすい。どの党も支持率が拮抗しているので、より多くの有権者の票を勝ち取る努力が求められる。そのため、各党は老若男女を問わず幅広く有権者の声に耳を傾け、多彩な候補者を揃えなければならない。投票率を見れば、1970年代以降は男女の投票率がほぼ同じになっており、今では女性の投票率の方が少し高い。それゆえに、女性有権者のニーズは、党の方針や候補者選びにも大きく反映される。党によっては候補者も当選する議員も女性の方が多いこともある。

フィンランド人に女性議員が増えた理由を聞くと、「歴史の流れ」「優秀な人を選んだ結果」「教育の成果」といった声が返ってくる。バランスを保つために無理やり女性を増やしたといった経緯はない印象だ。党首や閣僚に女性が多いことについても、単純に実力と人気が評価された結果だと多くの人が捉えている。

「男性でも大統領になれるの?」

世界的に見て、目立つ存在といえばサンナ・マリン首相だろう。政権発足当時、連立与党を率いる五党の党首が全員女性で、そのうち4人が30代前半というのも大きな話題になった。2020年9月にはそのうちの1人が交代したが、後を継いだ新たな党首も30代の女性だった。彼女たちは幼い頃から男女共働きの社会で育ち、政界にも周りにも女性のリーダーたちが既に多く存在した世代だ。しかも10代の多感な時期に初の女性大統領が誕生。続いて女性が首相になるのも見ている。女性が国のトップになることを自然に受け止めてきたはずだ。

もっと若い世代だと、緑の党で今後が期待される20代の女性議員リーッカ・カルッピネンに至っては、物心ついた時には大統領は女性で、地元の首長も女性だった。そこで当時、父親に「男性でも大統領になれるの?」と聞いたと新聞インタビューで語っている。

マリン政権を担う連立与党の党首5人が全員女性だと述べたが、これも別に不思議なことではない。どの党もほぼ半数以上の議員が女性なのだ。5人の顔ぶれを見て、海外メディアやSNSなどでは「女性ばかりなのはいかがなものか?」という否定的な声が一部で上がったが、正当な手順で党首選が行われ、そこで一番に選ばれた人たちがたまたま全員女性だったというだけなので、フィンランド国内では少し驚きはあったものの、男女のバランスに否定的な声はない。

注目すべきは、男女のバランスよりも、若い世代が党首に就いていることだろう。フィンランドでは過去にも30代の首相や20代の閣僚がいたこともあり、日本よりもはるかに若い人たちが役職を担うことが多い。それは政治に限らず、優秀な若い人たちの可能性を信じて任せ、ベテランは陰で支える文化があるからだ。