「このモヤモヤはマウンティングだ」という気付き
この小さなモヤモヤの正体を考えていた時に、漫画家の瀧波ユカリさんとエッセイストの犬山紙子さんが2014年に書かれた『女は笑顔で殴りあう:マウンティング女子の実態』(筑摩書房)という本に出会い、「このモヤモヤは、マウンティングをされたように感じたからではないか」と気がつきました。
元々、マウンティングとは、サルなどの哺乳類が、自分の優位を示すためにほかのサルの背に乗る動作を指してきました。しかし、2021年に出版された『三省堂国語辞典』の最新版である第八版ではこれに、「自分の優位を示すこと」という意味が追加され、2010年代に広まった用法と説明されています。心理学の分野では、幼児期や組織間での対立に関する研究はなされてきましたが、比較的新しい現象であるマウンティングについて直接的に扱った研究はあまりみられませんでした。そこで、自分自身にとって身近な、女性同士のあいだでみられるマウンティングについて研究を行おうと考えました。
「ファーストクラス」「バチェラー・ジャパン」などを調査
マウンティングは比較的新しい現象であるため、まずは実態の把握を行い、いくつかのカテゴリーに分類しようと考えました。そこで先行研究を参考に、マウンティングを4つの条件で定義しました。
<第1条件>
日常的に関係性が構築されている、あるいはこれから関係が続くことが予想される女性同士で生じる
<第2条件>
一人(Aさん)が「自分の方が立場が上である・優れている」ともう一人(Bさん)に暗示的に誇示する
<第3条件>
BさんがAさんの言動を受けて、自分の方が立場が下であると感じ、不快な気持ちになる
<第4条件>
Aさんは加害意識がない、あるいは加害意識がなさそうにみえる
調査対象は、NDLサーチ(国立国会図書館や全国の公共・大学・専門図書館等が提供する資料を検索できるサービス)での調査、ゼミでの検討などを通して、前述の『女は笑顔で殴りあう:マウンティング女子の実態』などの書籍や、「ファースト・クラス」(フジテレビ)、「『大奥』シリーズ」(フジテレビ)などのテレビドラマ、「バチェラー・ジャパン」(Amazon Prime Video)などのリアリティーショーとしました。これらの中から、マウンティングの定義に挙げた4条件に該当するマウンティングのエピソードを収集し分類したところ、女性同士のマウンティングは、3つのカテゴリーに分けられました。