漫画家の田房永子さんは「当たり前のようにタメ口で話し掛けてくるタクシー運転手に、猛烈な違和感を持った」といいます。本来、双方が敬語で話すほうが無難な場面で、それを崩してくる人にイライラしてしまうのはなぜなのか。田房さんが、「客と店員」「客とタクシー運転手」のコミュニケーションについて考えました――。
2015年3月18日、京都で出会った熱心なタクシードライバー
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店員に敬語を使わない男性

先日、初めてコストコに行きました。

コストコは会員登録をしないと買い物ができないため、カウンターで手続きをします。隣で同じ登録をしている60代前半くらいの男性客が「ねえ、これやったよ。次は? どうすればいいの」と店員にタメぐちで話していました。

男性の言葉遣いが耳に入ってくるだけで、私はムカムカとしてきました。

(なんて失礼なんだ……どうして「敬語を使ったほうが無難な現場」でわざわざタメ口を使うんだろう?)

しかしスタッフさんはにこやかに対応していて、男性も楽しそうです。むしろ、ムカムカを押し殺して無表情で手続きをしている私のほうが、神経質でおかしな人。

そこで私はムカムカを静めるために自分に言い聞かせました。

(もしかしたら店員は男性の姪とかかもしれない。それかアメリカ発のお店だからかもね、英語は敬語がないっていうし。きっと何か事情があるんだ)

そのように、無理矢理な推測を頭に巡らせることによって男性から意識を逸らしました。

私は敬語なのに相手はずっとタメ口

これまでも、「敬語を使ったほうが無難な現場」でわざわざタメ口を使う人にイラッとしたことは何度かあります。

去年、一人でタクシーに乗った時のこと。私と同じ40代くらいの男性運転手が「どこ?」「ああ、あっちね」「この道でいいかな?」「はーい」など、小さい子に話すような口調で私に話してきました。

私は敬語で返してもずっとタメ口。よりによって何かしら、道順などを細かく話しかけてくる運転手さんでした。それに対して敬語で返す自分の会話が「新入りの女性部下にフランクに話しかける気さくな上司男性」みたいになっていて、私は客なのになぜ部下っぽい感じで乗っていなきゃいけないのか、ドアを開けて甲州街道に転がり出たくなるくらい不快でした。特別丁寧に扱ってほしいわけでは当然なくて、普通に初対面としての距離を持ってほしいだけ……。

タクシー配車アプリの評価の欄で「タメ口はやめてほしい」と書くことを決意。

でも、運転手さんは悪気なくナチュラルにタメ口を使っていました。もしかしたら女性客に対して威圧感を与えないようにという配慮なのかもしれない(だとしたらそれは大きな間違いだけれども)。

なので、タメ口のほうが安心するわって客もいるのかな? 最近のタクシーの運転手さんのマナーが急向上したから逆に気になりすぎるだけか? わざわざ評価に書くことでもないか……? とぐるぐる悩んでしまいました。