夫が働いていない妻の幸福度は低い

一方、妻の場合、幸福度の平均値は夫が①管理職の正社員、②非管理職の正社員、③非正社員、④非就業の順になっていました(図表2)。

出典=佐藤一磨(2022)「管理職での就業は主観的厚生と健康にどのような影響を及ぼしたのか」PDRC Discussion Paper Series, DP2022-002,
出典=佐藤一磨(2022)「管理職での就業は主観的厚生と健康にどのような影響を及ぼしたのか」PDRC Discussion Paper Series, DP2022-002,

夫が管理職だと妻の幸福度が高く、逆に夫が働いていないと幸福度が低くなるというこの結果は、直感的にも納得できます。

特に夫が非就業の場合の幸福度の落ち込みは大きく、「働いていない夫」を持つ妻の苦悩が読み取れます。

ちなみに、夫が働いていない妻の幸福度が低くなるという現象は欧米でも確認されています(※2) 。この点は洋の東西を問わず妻を悩ます種になっているようです。

(※2)
①Jolly, N.A. (2022). The effects of job displacement on spousal health. Review of Economics of the Household, 20, 123–152.
②Marcus, J. (2013). The effect of unemployment on mental health of sposues– evidence from plant closures in Germany. Journal of Health Economics, 32, 546–558.
③Mendolia, S. (2014). The impact of husband’s job loss on partners’ mental health. Review of Economics of the Household, 12(2), 277–294.

女性活躍推進策が夫婦にもたらした影響

図表1の結果が示すように、妻が管理職の夫の幸福度は低くなっています。

日本では女性活躍推進策が進められ、徐々に管理職として働く妻も増加してきていますが、その陰で夫の幸福度低下という現象が起きていた可能性があります。

このような夫婦の一方の働き方がその配偶者に及ぼす影響に関しては、主に欧米で分析されてきました。欧米では主に夫婦いずれかの失業の影響が注目されてきました。

それらの分析では、失業の影響はもちろんそれを経験した本人において深刻ですが、家族にも及んでいる可能性があり、その影響を見落とすことは、失業の影響を過少に見積もっているのではないかという問題意識が持たれていました。

同じ議論は、女性活躍推進策による女性の管理職増加にも当てはまる可能性があります。

女性活躍推進策を進めることに注力するあまり、その負の側面が見落とされていたのではないでしょうか。

必要なのは働き方改革と性別役割分業意識のアップデート

さて、夫の幸福度が低下するからといって、女性活躍推進策の歩みを止めるのはナンセンスです。

女性活躍推進策は今後の日本にとって必要な政策であり、課題に対処しながら進めていくことが重要でしょう。

このために必要となるのは、妻が管理職として働くようになったとしても家族にしわ寄せがいかないワークライフバランス施策です。

また、これに加えて、夫側の性別役割分業意識のアップデートが必須となるでしょう。

佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。