時代の転換点に必要なのは経済政策より〈哲学〉
【堤】9・11を現場で経験して何年か経った時、ふとこんなことを考えたんです。
時代の大きな転換点を迎えたとき、例えば9・11やリーマンショックや、あるいは東日本大震災とか、パンデミックもそうですね……そういう、今までの価値観がひっくり返されるような規模の変化に向き合わされたとき、人間が一番必要とするものは何だろう? と。
そして、思ったんです。経済再建や復興計画、そのための財源うんぬんという目の前の対応は別として、それはきっと、起きてしまったことを、人間の歴史という長いスパンの中で捉え、深い思考で原点に立ち戻るための〈哲学〉ではないかと。
だから私は、デジタルファシズムを阻止し、民主主義を立て直すための岐路に立つ今の日本に一番必要なのは、経済学者よりもむしろ、質の高い哲学者だと思っています。
【斎藤】資本主義の恩恵にどっぷり浸かった私より上の世代は、ある意味、惑星的危機を前にしても思考停止をしています。日本社会が危機的状況にあるからこそ、「すべてを疑う」哲学的思考が求められているのかもしれませんね。(後編に続く)
構成=三浦愛美
1987年東京生まれ。ウェズリアン大学卒業、ベルリン自由大学哲学科修士課程・フンボルト大学哲学科博士課程修了。大阪市立大学准教授を経て現職。著書に『大洪水の前に――マルクスと惑星の物質代謝』(角川ソフィア文庫)、『人新世の「資本論」』(集英社新書)、『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』(KADOKAWA)、『ゼロからの『資本論』』(NHK出版新書)など。
東京生まれ。NY市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連、アムネスティ・インターナショナルNY支局員、米国野村証券を経て現職。日米を行き来し、各種メディアで発言、執筆・講演活動を続ける。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で日本ジャーナリスト会議黒田清新人賞、『貧困大国アメリカ』(3部作、岩波新書)で日本エッセイストクラブ賞、新書大賞受賞。多数の著書は海外でも翻訳されている。近著に『デジタル・ファシズム』(NHK出版新書)がある。