「考える力」をどう取り戻していくか

【斎藤】人新世の「資本論」』では「脱成長」が必要だということを訴えたのですが、それは何のためかといえば、ひとつには環境のためです。

斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)
斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)

人類の経済活動が地球環境を破壊した時代を「人新世」と呼ぶのですが、気候変動の危機を乗り越え、地球環境を維持していくには、経済成長の追求をあきらめなくてはなりません。

しかし、脱成長の目的のもうひとつは、民主主義のために経済を減速させようということです。このまま環境悪化が進むと、食料や水やエネルギーの奪い合いが始まります。そこで民主的にじっくり深く考えるという姿勢がますます重要になります。

これからは、ますます簡単に答えが出ないもののほうが増えてきて、「平等とは何か」とか、「自由とは何か」とか、本当は答えがないからこそ、みんなが考え続けなければいけない。それは時間のかかるプロセスで、効率化・加速化が第一の経済システムのなかではうまくいきません。

インターネットが民主主義を活性化するというのはやはり楽観的すぎた。「検索して、答えがわかっているから能動的に振舞っている」というのは錯覚にすぎなくて、「考える力」を社会としてどう取り戻していくか、が課題でしょう。

それこそが、民主主義を守る唯一の方法と言っても過言ではない。

日本にもまだ希望がある証拠

【堤】全く同感です。「深く考える力」は、民主主義どころか、私たちが人間でい続けるための、生命線でしょう。

堤未果『デジタル・ファシズム』(NHK出版新書)
堤未果『デジタル・ファシズム』(NHK出版新書)

デジタルファシズム』で私が一番力を入れた教育の章でも、デジタル時代に子供たちに必要なのは「タブレットの使い方」より「自分の頭で考える力」だと書きました。

斎藤さんの『人新世の「資本論」』本がすごく売れているのは、本当にここ日本にまだ希望がある証拠ですよ。

これ、すごく長い時間かけて深く深く考えて、何度も推敲すいこうを重ねて書き上げた、渾身の一冊でしょう? 読んでいてすぐわかりました。そういうのは、読んでいると行間からちゃんと伝わってきて、人の心を動かしますから。これだけ多くの人が感動するのは理屈じゃなくて、そこに斎藤さんの哲学があるからで、それこそが本当に価値があることだと私は思います。