そもそも「否定」は心理的安全性を確実に損なう

子どもへの声かけで最も大切なのは、「まず否定」をやめること。「正解」や「常識」から逸脱しているからといって「間違い」と即断定しないことです。

否定は、子どもにとっての安心安全を感じる環境を損ない、自己肯定感を下げる行為。大人もそうですよね。いったん否定されると、それ以降は話しにくくなったり、思い切ったことを提案しづらくなったりするものです。閉じた心には学びもありません。親は、「子どもの話に最後まで耳を傾ける姿勢」を、まず徹底するように心がけましょう。

ですが、ここで覚えておいてほしいのが、「肯定」と「否定」ということについての、正しい定義です。否定しないということは、「すべてに同意する」ことではありません。「すべてに同調する」ことでもありません。

肯定するとは、「なるほど、そういう意見もあるね」と子どもが言ったことをいったん認める、ということです。間違っている場合は「それ間違っている」「おかしい」と否定するのではなく、いったん「なるほど、そうなんだね。どうしてそう思うのかな」と理由を聞いたり、「他にどんな考え方があるかな」とさらなる思考を導きます。

「それは間違っている」と言いたくなるところは、

「なるほど、そういう意見もあるね」
「それもありかも。もっと詳しく話してみて」
「面白いね。どうしてそう思うの?」
「ママはこう思うけど、それについてはどう思う?」
「それもありかもね。でもママはちょっと違うかな」

と、否定や修正、同意も同調もせずに、「いったん肯定する」声かけをすることで、子どもの自己肯定感を高めていきます。

子どもなりの「ロジック」を面白がってみる

私たちは大人の論理を子どもにも当てはめようとします。そしてそこから逸脱しているときに、否定したり修正したりしがちです。そんな否定や修正は子どもの自己肯定感を脅かすこともあります。

子どもが素っ頓狂なことを言ったとき、思わず「何わけのわからないこと言っているの」と否定しがちですが、どうせなら「子どものロジック」を面白がってみてはいかがでしょうか? そこには、子どもが自ら答えを発見していく鍵も見つかる気がするのです。

娘スカイが3歳くらいだったでしょうか、こんなことがありました。

私が娘と日本語で話そうとしていたときのこと。ゲームにかかる時間についてたずねたとき、彼女は日本語で答えようとして言葉に詰まり、丸いほっぺをほんのりピンク色に染めながら、モゴモゴし始めました。

私は助け舟を出したいのを、ぐっとこらえながら、しばらく黙って娘を見守っていた次の瞬間のことでした。彼女は、「いっこミニット!」と言って、にっこり笑ったのです。

ボーク重子『しなさいと言わない子育て』(サンマーク出版)
ボーク重子『しなさいと言わない子育て』(サンマーク出版)

「いっこ=1個」と「ミニット=分」。要は「1分」と私に伝えたかったけれど、「分」という日本語の単位を知らなかった彼女は、自分が知っていた「いっこ」(=1)と、英語の「ミニット」(=分)をドッキングさせて、なんとか私に伝えようとしてくれたのです。そのとき私は、子どもってちゃんと論理的に考えられるのだな、と感動すらおぼえました。

ときとしてそれは大人の論理や表現の仕方とは違っているかもしれませんが、自分のなかにある知識を総動員して表現しようとしてくれる。子どもって、すごいなぁ、素敵だなぁ、と感じ入ったものです。

もちろん、私は「それは1分って言うんだよ」なんて言い換えませんでした。代わりに「うわー、いっこミニットってすごーい。確かにミニットが1個だものね! 1分って!」とさりげなく付け加えたのです。

ボーク 重子(ぼーく・しげこ)
ライフコーチ

Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ。アートコンサルタント。福島県生まれ。30歳目前に単独渡英し、美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学、現代美術史の修士号を取得する。非認知能力育児の研究・調査・実践を重ね、自身の育児に活用。娘・スカイが18歳のときに「全米最優秀女子高生The Distinguished Young Woman of America」に選ばれる。著書に『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など多数。