激ウマ弁当の思い出
結婚したばかりの頃のことです。夫の実家に行った際、帰りに義母が手作り弁当を渡してくれました。使い捨ての弁当箱に大きめのおにぎりが4つと、だし巻き玉子と焼いたウインナーがみっちり入っていました。
見た時は「シンプルなお弁当だな」と思いました。
家に着いてそれを食べたんだけど、私の大好きなタイプの柔らかいごはんのおにぎりで、「やったー! 超うめえ」ともぐもぐしている口にウインナーをぶち込みました。油っぽさとスモーキーな風味がやわらかごはんと溶け合い「う、うんま!」と声が出るほど。その、こんぶの塩っけとウインナーのうま味と海苔の風味が絶妙に混ざったごはんのかたまりをお茶で流し込んで息もつかずに薄味のだし巻き玉子を頬張る。疲れた体が一気にほぐれるような癒やしが訪れました。最高。シンプル弁当最高! ふーん、と鼻から息を出したらまたおにぎり、ウインナーのローテーションを夢中で繰り返しちゃう。こんなにおいしいお弁当は食べたことがない!
それをずっと忘れていたけど、「“お母さん”の料理ってあれで十分じゃないか?」と思ったのです。おにぎりがにぎれて、ウインナーが焼けて、だし巻き玉子が作れれば、もうそれでOKじゃないか? それ以上にあるだろうか? ないよ! めちゃくちゃウマい料理食べたいならレストランに行けばいいんだしさあ!
そう思った瞬間、「母親ならいろいろなメニューをおいしく作れる人であらねばならない」という思い込みが解けて、台所にいる時間がそこまで苦痛ではなくなりました。
定番が4つもあれば上等
だし巻き玉子はYouTubeでいろんな人たちが作り方を教えてくれています。
なんとなく宮迫さん(元雨上がり決死隊)のだし巻き玉子をマネして作ってみたら、当時9歳の娘が「ママの玉子焼きが一番おいしい」と言って、唯一、私の料理の中で楽しみにしてくれるメニューになったのです。初めて、やっと、「おいしい」と言ってもらえることの喜びみたいなのがわかる、というところにたどり着いたのです……!
え~、自信ついちゃう。それからは、豚汁、のり巻き、ジャーマンポテト、という子どもが喜んでくれる定番メニューが3つできました。4つもあれば上等だよね。
というわけで、いまだに後片付けの段取りはDAIGOさんよりたどたどしいけど、前よりは料理が少し楽しくなったのでした。
1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。