「これ以上、日本だけ後れを取らない」ために会長を引き受けた

——2021年に女性として初めて日本ペンクラブ会長に就任されています。会見での「ペンクラブにもジェンダーの視点が必要だから選出されたのだと考え、引き受けた」というコメントが心に残りました。

【桐野】苦渋の決断ではありました。私は書く人間。話すのは得意ではないので。ただ、海外のペンクラブでは女性が会長を務めるのはもう当たり前のことなんです。ここで私が引き受けなかったらまた日本だけ何十年も遅れてしまいます。それだけは嫌でした。

桐野夏生『燕は戻ってこない』(集英社)
桐野夏生『燕は戻ってこない』(集英社)

最近は会員が高齢化しているので若い人にもどんどん入ってきてほしいと思っています。規約には「書籍2冊以上」とありますが、本を出さなくてもSNSなどで作家活動をしている人もいます。ネットの潮流も見極めないと、どんどん時代遅れになってしまうと感じています。

ペンクラブは出版関係者が集まって表現の自由を訴える団体です。私が加入したのは、『バラカ』という政治的な作品を書いたことがきっかけ。思わぬ圧力がかかったりするかもしれないことを想像し、何か問題が起きたときに共闘してくれるような後ろ盾が欲しかったんです。でも実際には、自分が求めるような支援をペンクラブは行っていなかった。

今後は、作家が法的な相談を持ちかけられる窓口を設けたいとも考えています。人員や資金の問題もありますが、賛同してくれる人も多いので、実現に向けて活動していけたらと思います。

桐野 夏生(きりの・なつお)
小説家

1951年金沢市生まれ。93年「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞受賞。98年『OUT』で日本推理作家協会賞、99年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、04年『残虐記』で柴田錬三郎賞、05年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞、08年『東京島』で谷崎潤一郎賞、09年『女神記』で紫式部文学賞、『ナニカアル』で10年、11年に島清恋愛文学賞と読売文学賞の二賞を受賞。2015年には紫綬褒章を受章、21年には早稲田大学坪内逍遥大賞を受賞。『バラカ』『日没』『インドラネット』『砂に埋もれる犬』など著書多数。