映画業界だけでなく出版業界にも根強くはこびる考え

また、声明にも書きましたが、出版業界にも同じ問題はありますよね。

この声明を出したことで新聞や雑誌から取材を受けましたが、そのとき「御社ではどうですか?」と尋ねると、問題はあると答えてくださる方もいます。その中で、出版社の社員だった女性が「胸が大きいから」という理由で男性作家を囲むパーティーに呼ばれてお酌をさせられた、雑誌の編集部員の女性が飲み会の帰りのタクシーで男性の編集長にキスされたという話を記者さんから聞いて憤慨しているところです。さらに、現在、女性作家からセクハラや性強要をされたという勇気ある告発も出てきています。

私がかねて疑問に思っていたのは、出版業界や映画業界でよく聞かれる「素晴らしい作品を作るためには、何かしらの犠牲なり苦しみなりがどうしても必要だ」という理屈。私はデビューしてそんなに日が長くないので(2008年にオール讀物新人賞を受賞しデビュー)、「楽しい思いをしているだけじゃ、小説は書けないよ」というようなことをたびたび言われたんですね。それで「そういうものなのかな」と思い込んでいたところがあるんですが、今回の一連の報道を受けて、やはり創作物は健全な環境で作られるべきで、健全ではない場所で作られた作品をよしとするのは、そろそろ社会全体の共有概念として過去のものにしてもいいのではと思いました。

テーブルの上には開いて置かれた書籍
写真=iStock.com/Wako Megumi
※写真はイメージです

創作物は誰にも無理をさせない健全な環境で作られるべき

原作者として映画に関わる人を守るため、契約書にどんな条件を入れればいいのかということは、作家同士で話し合いながら勉強しているところです。性的なことに限らず、例えば小説の登場人物に合わせるために役者さんに体重を増やすようなアプローチはさせないとか、あらゆることで無理を強いないようリクエストできるかもしれない。制作スタッフの男女比を半々ぐらいにすれば、性強要が起こりにくい状態になるのではと考えた作家もいます。