稼ぐ力があっても「正義」がなければ、100年後には残っていない

私は「会社の目的はお金儲けではない。社会的価値を生み出すことが目的なのだ」という、稲盛さんや渋沢栄一が説いた思想をみなに伝えました。すると、「いくらいいことを言っても、稼がないとしょうがないじゃないですか」「お金がなきゃだめでしょう。従業員だって家庭があるし」といった意見が出てきます。

井上社長
撮影=石橋素幸

それに対して私は、渋沢の『論語と算盤』を引用したり、哲学者パスカルの『パンセ』から「正義と力」の話を引いて意見を述べました。「正義なき力は暴力であり、力なき正義は無力である」。つまり「正義と力、その両方が揃ってはじめて価値を生み出すことができるんだ。事業だってそうじゃないか」と。そこへさらに、みなから意見が出ては、ディスカッションを重ねていったのです。

私はこう論じました。「利己主義で事業をやれば、5年や10年は儲けが続くかもしれない。しかし、100年後にはその会社は残っていないだろう。稼ぐ力があるだけで『正義』がなく、やがてはバランスを崩して滅びるからだ。むしろ、利他主義を掲げたうえで力を発揮できれば、正義と力が揃うことになり、長く価値を生み出せる」と。

経営理念や行動規範についての長時間の議論によって社員の間にも浸透していったことで、利益優先主義への疑問が結局は「利他主義」という言葉に集約されていきました。私一人で決めずにメンバー全員でしつこく議論し、社員たちを決定プロセスに巻き込み、腹落ちさせました。じっくりと過程を経ることで理念も規範も「自分事」にしてもらい、「中途半端な浸透」ではなくなるようにしたかったのです。

最終的に完成したのが、社是の「利他主義」と、「常に革進することで、より多くの人々が心からの「安心」と「喜び」を得られる社会の仕組みを創る」という経営理念、そして14(現在は6)のガイドラインでした。

みなで行きついた社是と経営理念はLIFULLの背骨となり、わが社の成長を支えることになるのです。