「きたないものを溜めるな。よどむな」
「ネット中傷なんか見なければいい」と言われたこともありましたが、不思議なことに「イヤだ」と思いながらも自分のことが書かれていると、そういった書き込みから目が離せなくなってしまうんです。
目からの情報は強烈です。たとえパソコンや携帯の電源を切っても、残像が頭に焼き付いて離れない。ひとりでに涙が出てきたり、体調を崩したりもしました。夜、布団に入って目を閉じても、自分をののしる言葉が思い出され、頭の中がいっぱいになって眠れないんです。その時、「自分の中に入ってしまった悪意のある書き込みに、いま私は支配されているんだ。だったら外に出さなくては」と気が付いたんです。きっかけになったのは、ある先輩僧侶の言葉でした。
行院の修行中に、指導をしてくださっていた僧侶に、「心の中の川に、きたないものを溜めるな。流してしまえ。よどむな」と言われたことを思い出したのです。とはいえ、イヤなことを溜めないようにするにはどうすればいいのか、最初は見当もつきませんでした。
「私は『くそばばあ』なんかじゃない」
そこである時、そうしたイヤな気持ちを書きだしてみたんです。「なんで毎日、知らない人からこんなに『くそばばあ』なんて言われなきゃいけないんだ」「私は『くそばばあ』なんかじゃない」……と。
最初は、ファクスの裏紙などのいらない紙に、言われて嫌だったことを書き出し、汚いものに思えたその紙を指でつまんでビリビリに破いていました。だけどそれだとかけらが残ってしまう。そこで、周りに気を付けながら庭の片隅で火をつけて燃やしてみました。燃えさしは踏んで粉々にして、物理的に目の前から消し去ったんです。
そうこうするうち、燃やすことが面倒になってきました。それで、とにかく寝る前に一日を振り返って、その日のイヤだったことを、ただ書き出すようになっていったんです。
それを続けているうちに、「この人たちは、いつも書き出しが『くそばばあ』だけど、ほかにボキャブラリーがないのかしら?」と笑える余裕さえ出てきました。苦しみ、思い詰めることが、ばかばかしくなってきたんです。イヤな言葉を体の外に出すことで、少しずつ心も強くなっていったようです。
それ以来、毎日寝る前に、心の中に溜まっていることを書き出すのを日課にしています。
まずは不満や不安を少し脇においておき、実際に起きた出来事を客観的に見つめ、いいこと2、3個とよくなかったこと2、3個を紙に書き出します。紙は日記帳でもメモでも何でも構いません。私はチラシの裏やお菓子の包み紙に書き出したりしています。