失業保険が持続的な経済成長を実現する⁉

結局のところ、今、声高に叫ばれている自己責任論とは、弱者に対するバッシングを行うための道具に過ぎず、経済活動における自己責任とは異質のものとなっています。こうした歪んだマインドは、社会的に問題があるのは当然のことですが、健全な市場メカニズムを阻害するという点において、経済的な悪影響も大きいのです。

時折、市場メカニズムと前記の自己責任論を混同している人を見かけますが、これは完全な誤りです。健全な市場メカニズムの維持と、過度な自己責任論の抑制は両立するばかりか、むしろ車の両輪といってもよい関係にあります。

企業というものは本来、利益を追求するために存在しており、競争力を失った企業は市場から退出させるのが望ましい姿と言えます。時代とともに企業が変化していくのは当たり前なので、健全な経済を運営するためには、企業も一定頻度での入れ替わりが必要という理屈です。

しかし企業で働く労働者は違います。

企業が入れ替われば、当然、そこで働く労働者も転職を余儀なくされますが、立場の弱い労働者にとって、ひとたび失業すると生命の危険が生じるような状況では容易に転職などできるわけがありません。このような環境では、企業の新陳代謝は進まず、結果として企業の競争力も低下してしまうのです。

政府は失業者に対する各種支援を行っていますが、一連の失業対策には、単に労働者を保護するだけでなく、持続的な経済成長を実現するという目的も存在しているのです。

失業による国民生活への影響を緩和する措置を政府が講じなければ、結局のところ企業の経済活動も阻害されるという話であり、各種の失業対策は実は成長戦略も兼ねています。過度な自己責任論というのは、市場経済の運営にとってむしろ邪魔な存在といってよいでしょう。

SNSで知り合った人を警戒するのは日本人だけ

寛容性に欠け、人の足を引っ張る傾向が強い社会では、妬みやスケープゴートが発生しやすくなります。結果として、多くの人が萎縮し、他人を信用しなくなりますが、実は、これが経済にもたらす影響は甚大です。

総務省が取りまとめた2018年版情報通信白書には、ネット利用をめぐる興味深い調査結果が掲載されています。

白書では、ネットで知り合う人の信頼度について国際比較しているのですが、「SNSで知り合う人たちのほとんどは信頼できる」と回答した日本人はわずか12.9%でした。ところが米国は64.4%、英国は68.3%に達しています。逆に日本人の87.1%は「あまり信用できない」「信用できない」と答えており、ネット空間で知り合う相手に対して信用していないという際立った特徴が表れています。

しかし、この結果はネットだけの話にとどまるとは考えない方がよいでしょう。日本社会は不寛容で他人の足を引っ張る傾向が強く、多くの人が基本的に他人を信用していません。実は経済活動において、相手を信用できないことによって生じるコストは膨大な金額になります。

相手を信用することでコストを回避する欧米

信用できない相手と取引するリスクを軽減するためには、多額の調査費用をかけて相手を調べたり、すべての案件で詳細な契約書を作成するといった作業が必要となり、時間とコストを浪費します。これを回避するには、よく知っている相手だけに取引を絞り、狭い範囲で顔を合わせて経済活動するしか方法がなくなってしまいます。

こうした事態を前に、欧米社会は相手を信用することで、一連のコストを回避していると考えられます。欧米社会では、見知らぬ相手でも、まずはビジネスをやってみようという雰囲気が感じられますし、過去に取引がない相手でも、利益があると思えば躊躇なく取引をスタートします。何か問題があった場合には、その時に考えればよいというスタンスです(米国がガチガチの契約社会だというのは、一部の面だけを見た印象論です)。

一方、日本企業の多くは、よく知っている相手だけに限定するというやり方でリスクを回避するケースが大半です。日本の企業社会では、重層的な下請け構造という、諸外国には見られない商慣習が存在しますが、これは他人を信用できないという感覚から派生したものである可能性が濃厚です。