天台宗僧侶の髙橋美清さんは、過去に壮絶なネット中傷の被害に遭い、現在はそんな被害に遭う人を減らすための活動をしている。ネット中傷に関する相談に、どんなアドバイスをしているのだろうか。髙橋さんは自分の経験から、被害者に「忘れること」を勧めることも多いという――。
天台宗僧侶の髙橋美清さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
天台宗僧侶の髙橋美清さん

「忘れること」を勧めることもある

SNSが普及して、私たちはさまざまな情報を手に入れることができるようになりました。その一方で、匿名アカウントによるネット中傷の被害は一向に減る気配がありません。明らかに特定の個人を指して、虚実取り混ぜた内容を書き込んで責め立てる、プライバシーを暴露して嫌がらせをするなどのネット中傷は、たくさん起こっています。

ネット中傷をしてきた相手を、「許せない」と言う人もいます。私はそういった相談をされた時、「許すか許さないかはあなた次第。どうしたいの?」と尋ねます。

「何もしないのは悔しい」と言われたら、告訴すればいいと伝えます。と同時に、告訴の難しさについてもお話しします。告訴しても、警察に受理されるかどうかはわかりませんし、受け付けてくれないことも多いです。削除請求だけでいいのか、損害賠償請求まで考えているのか、自分が相手に対して何を求めているかを、整理する必要もあります。エネルギーと執念が必要ですし、その後も裁判には長い時間とかなりの費用がかかります。判決が出るまで、常にネット中傷のことを頭の隅に置いておかなければならないので、それに耐えられる根性があるかどうかも尋ねます。

「負担は大きいけれど、それでもやる?」と。戦う覚悟があるかどうかを確認するんです。

残念ながら、日本ではネット中傷を防いだり被害者を救済したりするための法律も体制も、まだ完全には整っていません。「プロバイダ責任制限法」という法律はありますが、匿名で中傷するような書き込みをした人の情報開示には大変な手間と時間がかかりますし、開示されないケースもあります。私は、何とかこうした状況を改善したいと、告訴したり、行政に働きかけたりしていますが、大変な根気と精神力が求められます。

だからこそ、その人が「それに足るお金も、時間も、精神的な強さも持てる自信がない」ようであれば、「忘れること」を勧めます。

でも、忘れることはなかなか難しい。その時は、こんな方法を試してもらっています。