窓口の職員も「わかりづらくて……」

旧姓の併記は本人に不便を生むだけでなく、行政にも複雑な運用を強いています。

私が、マイナンバーカードに旧姓を併記する手続きをした際、区役所の窓口で担当してくれた職員が「今の制度は、われわれも思うところがありまして……」とつぶやいたことは、とても印象に残っています。

旧姓併記をした後で、やはり併記をやめることにしたり、離婚して旧姓が旧姓でなくなったり、併記する旧姓を別の旧姓に変えようとした時はどうなるのか。資料を基に説明をしてくれた時の一言ですが、担当者本人も「わかりづらくて」と嘆いていました。

筆者がマイナンバーカードに旧姓を併記する際、区役所でもらった資料。複数氏名運用の複雑さがあらわれている
写真=筆者提供
筆者がマイナンバーカードに旧姓を併記する際、区役所でもらった資料。複数氏名運用の複雑さがあらわれている

2001年に内閣府の男女共同参画会議基本問題専門調査会がまとめた報告によると、住民票、パスポート、国際航空券、運転免許証、健康保険証の運用について、それぞれの所管省庁が「旧姓併記を認めるのは困難」と回答しています。さらに、「旧姓使用を広く浸透させるためには、相当のコスト、労力等を伴う」「行政関係の文書に限っても所管省が多岐にわたっており、足並みをそろえた対応が困難。(旧姓使用を部分的に認めることは、却って他の手続との関係で混乱を生じさせるおそれ)」という指摘も上っていました。

20年後の現在、マイナンバーカードやパスポートの運用で、当時予想された通りの混乱が広がっているわけです。

政府も「マネーロンダリング」のリスクを指摘

2021年12月17日の参議院予算委員会で、林伴子内閣府男女共同参画局長は以下の内容の答弁を行いました。

旧姓の通称使用については
・本人だけでなく企業や行政にとってもコストや事務負担が大きく経済的にマイナス
・パスポートは旧姓併記が可能となっているが、航空券やビザは戸籍名なので現地で混乱するなど海外の仕事や生活に支障がある
・戸籍名と通称を使い分けることにより、マネーロンダリングなど悪用の懸念がある
・離婚・再婚により複数旧姓のある人も多くなっている
・名前は個人の尊厳やアイデンティティ、人権に関わるものであり、旧姓の通称使用では根本的な解決にならない
などの限界や課題が、本年9月の男女共同参画会議の計画実行・監視専門調査会をはじめ、さまざまな場で指摘されている。

ここで政府から明確に「マネーロンダリング」まで踏み込んだ指摘があった点は重要です。