金融機関からもリスクの指摘

2019年にマイナンバーカードへの旧姓併記が始まり、さらに旧姓で印鑑登録を行い旧姓が併記された印鑑証明を取得することもできるようになりました。現在は、パスポートに旧姓A、マイナンバーカードや住民票、印鑑登録には旧姓Bと、別々の旧姓を併記することすら可能です。つまり、「不動産購入は戸籍氏名」「登記の印鑑証明は旧姓A」「振り込みは旧姓B」といった運用も可能です。

昨年9月30日の内閣府の第5次男女共同参画基本計画実行・監視専門調査会(第3回)でも旧姓の通称使用について議論があり、委員から以下のような言及がありました。

「内閣府男女共同参画局から金融機関の業界団体に対して、通称での口座の開設を認めてほしいと依頼をしてきた。しかし、2つの名前、通称と戸籍名を使い分けることによるリスクもあるのではないか。2つの名前を悪用してマネーロンダリングなどのリスクがあるのではないかといったような声もあった」
「名前を変えることが、クレジットカードのブラックリストから外れるために使われることも(ある)。実際に養子縁組が悪用されるケースがあるが、通称もそのような可能性が出てくるだろう」

旧姓併記は真の「女性活躍」にならない

旧姓併記は一見、多くの女性にとって選択的夫婦別姓制度の代替になる、女性活躍の視点に沿ったもののように見えます。

しかし、パスポートへの旧姓併記について外務省が指摘している通り、あくまでも「国際規格に準拠しない、例外的措置」。野田聖子内閣府特命担当大臣も、2021年12月17日参院予算委員会で「世界的にこれまでも名前を2つ持つという国はどこにもなく、通称使用を法律にしたところで国際社会には通用しない法律ができてしまう」と答弁しています。

国際的に通用しないうえに、行政においては「本人性を確認する」という重要な業務の壁となって煩雑さを生む。しかも、マネーロンダリングや詐欺などに悪用されるリスクも伴います。不自然で矛盾をはらんでおり、あくまでも選択的夫婦別姓が実現するまでの暫定的措置にしかならないのではないのでしょうか。

井田 奈穂(いだ・なほ)
「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長

IT業界で働く傍ら、Twitterでつながった仲間と地元議会に選択的夫婦別姓に関する陳情書を提出。地方議会での可決をきっかけに2018年11月、団体を設立。地方議会で可決した329件の意見書のうち、104件は同団体メンバーが働きかけたもの。国会では主要7党で旧姓の通称使用の問題について勉強会を実施。