多くの企業でメンタルヘルス研修の講師をする見波利幸さんは「コロナ禍でのコミュニケーションスタイルの変化が、新たな嫌がらせやいじめを生み出している」という。その実例と対応法を紹介する――。
品質管理の認証
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マニュアルを渡すだけでサポートなし

リモートワークの浸透は、これまでの働き方を大きく変化させました。「時間を効率よく活用できる」「ライフ・ワーク・バランスをとりやすい」など、リモートワークのメリットを感じている人も多いでしょう。

ただその一方で、インフォーマルな場が激減したことによるコミュニケーション不足が、職場の人間関係に影響を与えることも心配されています。

あちこちで聞かれるのは、リモートワークの前提となるセキュリティ対策でつまずくケースです。ITスキルが高い人にとっては難なくできる設定作業も、普段使い慣れていない人にとっては煩雑で、また不安も大きいものです。しかし、マニュアルをポンと渡すだけで、なんのサポートもないという職場も多いようです。当然、設定が完了するまでは本来の業務もできず、仕事も滞ります。

ただでさえ慣れない作業で不安感を抱えているところに、上司から「まだセキュリティ設定も終わらないのか」「マニュアルを渡しているのに、何をモタモタしているんだ」と叱責され、強いストレスを抱えてしまったという声も聞きます。

悪意なきパワハラ

セキュリティ設定だけでなく、リモートワークに必要なさまざまなツールの導入においても、同様のことが起きています。スムーズに使いこなせる人ばかりではなく、慣れるまで操作に手間取る人もいるでしょう。そうした人に対して、叱責したり、「スキル不足」のレッテル貼りをするのは、もはや指導ではなくパワハラです。

ただ厄介なのは、パワハラ発言をしてしまう上司に悪気がないケースがほとんどであること。困っている社員に適切なフォローをしないのは、「在宅ワークの環境づくりは、個人が責任を持って行うのが当然」と考えているため。ただし、業務が滞るのは困るから、注意をする。これが当の部下にとっては非常なストレスとなるわけです。とくにIT系の企業では、できて当たり前と考えられることが多いため、そのストレスは一層強くなる傾向が見られます。