「厳しい現実への危機感が欠けている」
野田氏の発言趣旨は以下の通り。
①報告書に「次世代の皇位継承者がいらっしゃる中で……」とあるが(前に引用、報告書6ページ)、次世代の皇位継承候補者は悠仁殿下お一方だけ。幸い大事には至らなかったものの、悠仁殿下が乗られたワゴン車が高速道路で前の車両に追突した事故(平成28年〔2016年〕11月)や、殿下が通われるお茶の水女子大学附属中学校に刃物を持った不審人物が侵入した事件(平成31年〔2019年〕4月)などが現に起きている。次世代の継承候補者が複数おられる状態ならばともかく、たったお一方しかおられない厳しい現実への危機感が欠けているのではないか。
②政府が目指す新しい制度によって、婚姻後も皇族の身分を保持される女性皇族の「配偶者と子は皇族という特別の身分を有せず、一般国民としての権利・義務を保持し続けるものとする」とあるが(同10ページ)、それならば、その方々の政治活動・経済活動・宗教活動などの自由が尊重されねばならない。しかし、そのことと、「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」「国政に関する権能を有しない」とされる憲法上の天皇及び皇室のお立場と両立できるのか。
③政府が提案する新しい制度で、養子縁組により皇族の身分を新たに取得した(しかし皇位継承資格を持たない)旧宮家系子孫の男性が縁組後に結婚したお相手は、皇族の身分を取得できるのか、又、お子様は皇族になるのか、そのお子様が「男子」なら皇位継承資格を認められるのか、いずれも報告書に言及していないが、政府はどう考えているのか。
政府の回答は“はぐらかし”に終始
これらに対し、政府側は内閣官房皇室典範改正準備室の大西証史室長が回答に当たった。しかし残念ながら、ほとんどまともな答えになっていない。
①に対しては、平然と「悠仁様までしかいないということも十分に認識」して議論した、と答えた。これは、“たとえ次世代の候補者がお一方でも、そこまでは絶対に大丈夫”という楽観、希望的観測に基づいて「議論」したことを意味する。しかし、悠仁殿下のご安全に万全を期すべきなのはもちろんながら、これまでも実際に危険を感じさせる場面があった。それなのに、悠仁殿下のご即位を100%確実と考えて検討するのは、皇位の“重み”に照らしてあまりにも楽観的すぎる、危機感が足りないというのが野田氏の問題意識だった(最近は悠仁殿下が即位を辞退される可能性を強調する八木秀次氏のような保守系の論者も現れている)。まさに政府の現状認識の甘さを露呈した答え方と言うほかない。
しかも、野田氏が実例として挙げたワゴン車の追突事故も不審人物の侵入事件も「具体に……思い出すことができません」と述べていた。それらは普通の国民でも、皇室への関心があれば強い印象を受けた衝撃的な出来事だったはずだ。皇室典範改正について、政府関係者では最も事情に精通しているはずの人物がこの調子では、政府の取り組みに不安を禁じ得ない。