不条理に“慣れた”現代人は官僚制化を深刻化させる

こうした「合理化の不条理」は、かねてよりカフカ的現象、つまり肥大した官僚制特有の不条理といわれたもので、20世紀には文学の一大ジャンルともなりましたし、社会科学でも主要なトピックのひとつでした。

しかし、この官僚制的不条理はむしろ、現代こそ本当におそるべきものになって、わたしたちの生活のすみずみまで拡散していっているものです。

ところが、現代の不思議な現象ですが、それと反比例するかのように、わたしたちは官僚制あるいは官僚主義を問題にしなくなっていったのです。

実際、官僚主義があれほど問題にされていた1960年代の生活といまとを比較してみましょう。いまと比較すればとんでもなくゆるかったであろうし、官僚制的手続きにすら、わたしたちの裁量の余地があちこちにあったはずです。

これは奇妙なことですが、このような実態と意識の乖離が、ますます官僚制化を深刻化するといった事態を招いているのです。

酒井 隆史(さかい・たかし)
大阪府立大学教授

1965年生まれ。専門は社会思想、都市史。著書に、『通天閣 新・日本資本主義発達史』(青土社)、『暴力の哲学』『完全版 自由論 現在性の系譜学』(ともに河出文庫)、『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』(講談社現代新書)など。訳書に、デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(共訳、岩波書店)、『負債論 貨幣と暴力の5000年』(共訳、以文社)、マイク・デイヴィス『スラムの惑星 都市貧困のグローバル化』(共訳、明石書店)など。