81年の人生から導き出した処世術

組織が穏やかな空気に満ちていることは、素晴らしいことだと思う。

山田西リトルウルフには、監督の怒声に怯えながらプレーをしている子は見当たらない。どの子も、体を伸び伸びと自由自在に動かせることに喜びと誇りを感じているのが、見ていて伝わってくる。それはやがて確固とした自信となり、さらには強靭な自立心へとつながっていくことだろう。

子どもたちはみんな、いきいきとしている。
撮影=水野真澄
子どもたちはみんな、いきいきとしている。

しかし、意外にも、おばちゃんの人間観はクールなのだ。

「生まれ育ちって、絶対に一人ひとり違います。兄弟だって違いますよ。生まれ育ちの違う者同士が、大勢一緒におったらどうなります?」

ふたりしかいない夫婦でも、お互いの違いを擦り合わせるのは難事業だ。

「相手を変えようと思っても、絶対に無理なんです。生まれ育ちの違いは、絶対に消えてなくなることはありません。だからお互いを尊重して、歩み寄っていくしかないんです。そうすれば、夫婦も組織も円満になりますよ」

変わることのない相手を変えようとすれば、苦しかない。そんな不毛なことをするよりも、さっと体を動かした方がいい。体はいくら動かしても減らないのだから……。

おばちゃんが81年の人生から導き出した、これは冷徹な処世術なのかもしれない。

棚原さんのノックは遠く外野手のところまで飛んでいった。
撮影=水野真澄
棚原さんのノックは遠く外野手のところまで飛んでいった。
山田 清機(やまだ・せいき)
ノンフィクションライター

1963年、富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(朝日文庫)、『東京湾岸畸人伝』『寿町のひとびと』(ともに朝日新聞出版)などがある。