ウェルテル効果も続いている

また、若い女の子に影響の大きかった著名人の相次ぐ自殺も、少なからず影響があった。自死報道に影響されて自殺が増える事象を、「ウェルテル効果」といい、特に若者が影響を受けやすいとされている。

自殺の報道の影響に関しては過去の研究で、①自殺が大きく報道されればされるほど自殺率が上がる。②自殺の記事が手に入りやすい地域ほど自殺率が上がる。ということが分かっている。

日本でも昭和61年にアイドルが自殺し、その影響で多くの若者の後追い自殺・誘発自殺が起きた。私たちは40年前にすでにウェルテル効果を体験していた。にもかかわらず、その経験を生かせず、若者を死に追いやってしまったことを謙虚に認め、二度とこのような事態にならないような策を練らなければならないと強く思う。

コロナ前から女性の生きづらさはあった

今回、コロナ禍で起きた女性の自殺の急増は、コロナ禍だから生じたというより、コロナ以前からあった虐待・DV・貧困・家族問題などがコロナの自粛によって悪化したと考えている。それらに対する対策が不足していたところにコロナ禍という社会心理的危機が襲ってきたのだと感じている。

実際、自殺対策をこれまで着々とやってきた、男性たちの自殺は増えず、これまで自殺対策が不備であった子どもと女性について、自殺が増えたということを見ても、これまでの自殺対策の失策と考える。

なぜ、その人が死ななければならなかったのかを、しっかりと分析して対策をとり、誰一人、自殺で死なないようにし、コロナ時代を生き抜けるようにしたい。

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髙橋 聡美(たかはし・さとみ)
中央大学人文科学研究所 客員研究員

鹿児島県出身。自衛隊中央病院高等看護学院を卒業後、精神科・心療内科で看護師として働く。看護学校の教員をしながら大学を卒業。2003年から2年間、スウェーデンで精神医療福祉および教育の調査をし、東北大学大学院医学系研究科で博士(医学)を取得。2006年より自死遺族支援など自殺予防活動を開始。児童生徒・教員・保護者向けのSOSの出し方・受け止め方の講演を全国で行っている。