自分が経験し得ない事柄に対する想像力の欠如

コロナ禍では多くの女性が不安を抱えることになりましたが、そうなるであろうことに、ほとんどの男性はピンときていませんでした。男女不平等をデフォルトと捉えていたためで、今も女性に起きている問題に対しては取り組みの優先度が低い状態が続いています。これは政治家に男性が多いことも関係しているかもしれません。

例えばコロナワクチンの妊婦優先接種問題です。本来なら真っ先に取り組んでしかるべきなのに、男性の多くは「妊娠」という、自分が経験し得ない事柄に対して想像が及びませんでした。赤ちゃんが亡くなるという最悪の事態が起きるまで動かなかったのです。

妊娠中の女性と病院の医師
写真=iStock.com/takasuu
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自宅療養についても同じことが言えます。今の日本はまだ、働く夫と専業主婦という家庭も多いわけですが、夫がコロナに感染して自宅療養になったらどうなるか。職場に感染を広げるのは防げるかもしれませんが、妻や子どもに感染するリスクは大きく高まってしまいます。自宅療養は、夫や職場のことは考えても、妻や子どものことは頭になかったからこそ出た方針と言えるでしょう。

これらは結局、男性中心の社会が、男女不平等がデフォルトであり、女性の優先度は低いものと捉えているからではないでしょうか。だからこそ、女性が抱えるであろう問題や痛みに想像が及ばないのです。

国の取り組みは本格化してきた

女性に対する暴力の問題も、根っこは同じだと思います。ただ、最近は男女問わず声を上げる人も増えており、国もさまざまな取り組みを始めています。

例えば、昨年発表された第5次男女共同参画基本計画は、特に女性に対する暴力への取り組みを重視しており、「安全・安心な暮らしの実現」という項目の中で「女性に対するあらゆる暴力の根絶」を取り上げています。内容も基本認識から成果目標、具体的な対策案までがしっかりと書かれています。

地位・関係性を利用した犯罪や性交同意年齢、性的な撮影行為などについても言及があり、かなり踏み込んだ内容です。また、暴力を容認しない社会づくりや、被害者支援への姿勢も明確にしています。とてもよく練られた、意義も効果も大きい計画だと思うので、皆さんにもぜひ目を通してほしいと思います。

11月12日からは、内閣府による「女性に対する暴力をなくす運動」期間が始まります。期間中は、女性に対する暴力根絶のシンボルであるパープルリボンにちなんで、東京スカイツリーなどを紫色にライトアップする「パープル・ライトアップ」も実施されます。

こうした政府の取り組みはあまり知られていません。女性に対する暴力への関心は、残念ながら社会の中ではまだ低いのかなと感じます。それでも、こうした取り組みは暴力根絶への一歩になるはずです。政府の出した基本計画がしっかりと実行されるよう、皆で注視していきましょう。

構成=辻村洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。